証券と銀行の「個人マネー」囲い込み戦争 「1人1口座」をめぐる攻防

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採算性に懸念も

銀行業界は、ISAで新規顧客の獲得をもくろむ。銀行の投資信託の預かり残高は、07年をピークに減少傾向が続く。しかも顧客は高齢者に偏っている。「これから高齢者から若者層にカネが流れる大相続時代が始まる。ISAはそのメガトレンドをとらえるきっかけになる」(メガバンク担当者)。

銀行にとって最大の武器は、預金口座を通じた幅広い顧客基盤だ。投資経験の少ない若年層にとって、証券会社の馴染みは薄い。預金口座を開いている銀行のほうが、心理的な距離は近い。

これまで銀行は顧客基盤を生かし切れていなかった。メガバンクの証券口座数は、預金口座数の1割程度にすぎない。グループの証券会社とどうすみ分けるかという課題は残るが、「預金口座を持ちながら、投資に至っていない顧客に積極的にアプローチする」(メガバンク担当者)。

地域経済が疲弊し、企業への貸し出しが伸び悩む地方銀行にとっても、だぶついた預金から投資への流れが生まれれば、預貸率低下の歯止めになる。西日本のある地銀は「スタートダッシュが肝心。5月にはキャンペーンを始めたい」と意気込む。同行はISA専用商品の開発やネットツールの活用を検討し始めた。

ようやく制度が固まった日本版ISA。現状では金融機関の取り組みに温度差があるのも事実だ。最大の懸念は採算性。ISAは文字どおりの少額投資であり、商品の入れ替えもできない。さらに口座開設には住民票の提出が必要で、税務署とのやり取りなど事務作業が繁雑。口座管理だけでも相当なコスト負担になる。関係者からは「相当な口座数を取らないとペイしない」との声が上がる。

ただ、口座を開設してもらえなければ、エントリーチケットさえ手に入らない。「地元客を取られるわけにはいかない。とにかく後れを取らないように間に合わせるだけ」(関東の大手地銀)。日本版ISAは、個人向けリテール市場を変貌させるポテンシャルを秘めている。

(撮影:吉野純治、梅谷秀司) 

週刊東洋経済2013年2月23日号

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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並木 厚憲 東洋経済 記者

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なみき あつのり / Atsunori Namiki

これまでに小売り・サービス、自動車、銀行などの業界を担当。テーマとして地方問題やインフラ老朽化問題に関心がある。『週刊東洋経済』編集部を経て、2016年10月よりニュース編集部編集長。

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