「キムタク式」は、対象を自分たちの側に引き寄せる
感覚的な理由で申し訳ないのですが、浜崎あゆみさんが所属するエイベックスは、J-POPの王者。「昭和の歌謡曲とは違うよ」というアイデンティティが、当事者はともかくとして社会的には認められているはずです。
しかしそれを、微塵の躊躇もなく「ハマアユ」と呼んでしまうのはどうか。
実はこの「いつまでキムタクと呼ぶのか問題」は、1990年代にすでに故ナンシー関さんが指摘していたはずです。確か例として小沢健二さんの「オザケン」が挙げられていた記憶があります。
以来、時代は21世紀に突入し、グローバルの世になりましたが、マスコミはいまだにキムタクを「キムタク」と呼んでいる。それを見ると「実は日本人の中の昭和はまだ終わっていないんじゃないか」と感じます。
もっともこの「キムタク式愛称」で人気者を呼びたがるのは、マスコミの中でも特に芸能マスコミに限られるようです。プロ野球では、広島東洋カープ、前田健太さんの「マエケン」の例などはありますが、「ゴジラ松井」「ハンカチ王子」などと、別系統のネーミングが主流。
社会面に目を転じても、たとえば政治家が「キムタク式」で呼ばれるのはあまり目にしない。故浜田幸一さんの「ハマコー」が目立つくらいでしょうか。こちらの分野では「平民宰相」「安麻連立政権」など、また別体系のネーミング発生法則があるようです。
そう考えると「キムタク式ネーミング」は芸能マスコミの伝統。さらにいうとこれは、要するに対象を自分たちの側に引き寄せるために使われているのだと思います。
芸能の世界も変容している。「女性に支持される女性タレント」とか、「アイドルだけどアーティスト」などと、昭和的な感覚では訳のわからんタレントも出てきます。
だが、そんな存在でも「キムタク式」で呼ぶと、がぜん親しみやすく、ミヤネ屋の芸能コーナーで取り上げても、欠片も違和感のない存在となる。そうした効用がこの愛称にはある。
逆にいうとデジタルデバイドなどものともせず、現代の芸能事象を理解したい、報道したいという欲望が世の中にはまだまだあるわけで、キムタクがキムタクと呼ばれているかぎりは、「昭和はまだ終わってない」といえるのではないしょうか。
【初出:2013.2.23「週刊東洋経済(投資の新常識)」】
(担当者通信欄)
小学校から大学までを振り返れば、常に「キムタク式愛称」で呼ばれる、学年・クラス・サークルの人気者の顔が浮かびます。先方は自分のことなど知らないけれど、自分のほうでは、まるで自分の友達であるかのように彼や彼女を日々、俎上に載せて噂話。一方、「平民宰相」、「ハンカチ王子」のように、相手との距離を自然に折り込みながら呼ぶ通り名が普通の人に対して使われることはなかなかありません。例外となりそうなのが、就職活動中ありがちな「あなたのキャッチコピーは?」ですが、当時作った恥ずかしい自称を早く記憶から消し去りたいものです。
さて、堀田純司先生の「夜明けの自宅警備日誌」の最新の記事は2013年2月25日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、2030年あなたの仕事がなくなる)」で読めます!
【漫画の国の独自進化と、グローバル社会の相互刺激】
まずは「コマ」に注目してみてください。伝統的アメリカン・コミックと日本の漫画の違いとは?
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら