都知事選「小池圧勝」は"対話力"で説明が付く 3候補の街頭演説には雲泥の差があった

✎ 1〜 ✎ 44 ✎ 45 ✎ 46 ✎ 最新
拡大
縮小

さて、小池候補はどうだったか。そもそも、たった一人で都政の伏魔殿に切り込む、「正義の戦士」というポジショニングを作ったのは極めて巧妙な戦略だった。彼女自身、「フランスの一流ブランドの企業戦略に精通している」と言うだけあり、マーケティングに長けている。まさに、自分というブランドづくりの策を常に巡らせてきた人物のようだ。 

スピーチも絶妙だった。「崖から飛び降りて」「退路を断って」「組織ゼロ」と繰り返し、自らのブランドストーリーを展開、覚悟と潔さをアピールする。退屈な他議員のスピーチを次から次へと聞かせることもない。若狭勝衆議院議員が前座として、手短に小池議員の実績をアピールする。防衛大臣、環境大臣の実績、そして、女性初の都知事の可能性など、あざとい自己PRは、自分ではあえてせず、前座や司会に言わせる。これも高等なスピーチテクニックだ。この役割分担も非常にうまい。

小池氏は「共感力」の重要性を知っていた

初登庁時の花束も緑色だった(撮影:尾形文繁)

シンボルカラーの緑のものを何でもいいから持ってきてくれ、と有権者に呼びかけておき、スピーチの場で、「ほら、ああ、皆さん持ってきてくれたのね」と会場に話しかける。話し手と聞き手の共感形成のためのトリックのオンパレードである。冒頭のアイスブレークのテクニック、笑いをとるテクニック、ことあるごとに「いかがでしょうか」「お手伝いいただけますでしょうか」と聴衆に語り掛けるテクニック、ちょっと言い間違えをしたり、崩した言葉を使い「素の自分」を見せるテクニックなどを駆使し、会場を丸ごと巻き込み、一体感を醸成する。

小池氏はいみじくもスピーチの中でこう言い切った。「リーダーは共感力が必要だと思う」。そして「大義と共感が(私の)政治テーマであり、手法である」とも。コミュニケーションの重要性をどの候補者より知り尽くし、きわめて戦略的にアプローチしていたと推察できる。

コミュ力に長けた政治家のパフォーマンスを「劇場型」と否定的に言う声もある。しかし、これが、民意が全く反映されない「密室型」に対峙する言葉だとすれば、このやり方も一概に否定できないのではないか。大いに劇場の中でオープンに議論を戦わせ、真価を発揮していただきたいものである。

岡本 純子 コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おかもと じゅんこ / Junko Okamoto

「伝説の家庭教師」と呼ばれるエグゼクティブ・スピーチコーチ&コミュニケーション・ストラテジスト。株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部卒業。英ケンブリッジ大学国際関係学修士。米MIT比較メディア学元客員研究員。日本を代表する大企業や外資系のリーダー、官僚・政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチ等のプライベートコーチング」に携わる。その「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれる。2022年、次世代リーダーのコミュ力養成を目的とした「世界最高の話し方の学校」を開校。その飛躍的な効果が話題を呼び、早くも「行列のできる学校」となっている。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT