都知事選「小池圧勝」は"対話力"で説明が付く 3候補の街頭演説には雲泥の差があった

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前回、イギリスのメイ新首相のスピーチをご紹介したが、スピーチは聞き手との心のつながりを作る場である。その結びつきは、自分のことを必死に語っても作ることは生まれない。聞き手が何を聞きたいのか、自分に何を求めているのかを徹底的にリサーチし、聞き手の言葉で話さなければならない。だから「I」ではなく「We」「You」で語り掛けなければいけない。その基本動作が全くないのだ。会場との距離はどんどんと遠のき、何の心情的な絆も生まれないままに演説は終わってしまった。

「知名度不足が敗因」と分析するメディアもあったが、それは全く違う。岩手県知事時代の話、石原氏の私怨など、メディアにさんざん取り上げられており、都民が彼のことを知らなかったと言えば、そうではないだろう。「知名度」のせいではないのだ。とにかく名前を覚えてもらえばいい、とばかりに、名前を連呼し、チラシの裏側には大きく名前だけを書き、名前のポスターを何枚も候補者の後ろに掲げ、メディアに映し込もうとする戦略はまさに愚の骨頂。有権者をあまりにバカにしている。

その選挙スローガンも「あたたかさと夢あふれる東京」「実務能力と責任感、現場目線、都民感覚」と、聞く人のハートには、まったくもって刺さらない、抽象ワードと自己礼賛ワードが上滑りしているだけだ。

鳥越氏の演説は「取材の中継」だった

それでは鳥越俊太郎候補はどうだったか。そもそも遊説の数が圧倒的に少なかった。陽射しの暑い昼間に街頭に立つことはあまりなく、陽の陰る夕方から登場する。元気な前座の議員が次々とマイクを握り、鳥越氏をひたすらに持ち上げる。その中でも、ジャーナリストとしての実績をほめたたえる声が目立った。「現場に自ら行く」「人の意見に耳を傾ける」と絶賛する。公式ウェブサイトでは、ジャーナリストしての「輝かしい」人生をヒーローのようにまとめたビデオがメーンで、あまり詳しい公約などもない。

ジャーナリストが悪いわけではないが、自分も半分、その端くれであるので、感じるのは敏腕記者ほど、政治家には向かない人が多いのではないか、ということだ。確かに記者は現場の声を聴くのが仕事だ。権力に抗い、その問題点を洗い出し、警鐘を鳴らすことを正義とすることがあまりに長く染みつくと、その癖はなかなか抜けない。問題を暴露することが主目的となり、解決策を提示するところにまで行く着くことはあまりない。鳥越氏のチラシには「ジャーナリスト出身だからできる都政がある」「聞く都知事を」「一人ひとりの声に耳を傾けるという現場主義を貫く」とある。

ただ、都民の立場からすれば、「これから聞くの?」という気持ちを感じてしまうのも事実だ。今、どういう問題があるのかを明確に示し、どの様に取り組むのか、という答えを都民は待っているのであって、「これからいろいろな人に会って話を聞きます」というメッセージはあまりに頼りない。

鳥越氏のスピーチは例えば、「今日、保育園に視察に行ってきました。そして、保育士の人にいくらもらっているのかと聞きましたよ。そしたらね、たった十何万円だというじゃないですか」。まさに取材の中継そのものだ。ストーリーになっているので、聞きやすい。ただ、だからどうすればいいのか、という肝心の部分は聞く人の頭には入ってこない。自らをヒーローとする圧倒的な自己陶酔型のスピーチにやはり共感の余地はなかった。

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