「子持ちで離婚したら、もう普通に生きようがない。昔の人は離婚が少なかったじゃないですか。何でも耐えて。主婦を経験して子どもを育てながら、生きるってことにも大きな価値があるはずなのに、日本の社会ではそれがいっさい認められない。女性はしょせん補助的なものという意識があって、だからパート賃金がこれだけ安い。子どもを抱えて離婚したら、もう終わりです。少子化対策と言っても、結局、全部自己責任。私だけじゃなくて団地のお母さんたちの苦しむ姿を見ているから、娘は絶対に将来は子どもを持たないって言っています。それは正しいと思うので、何も言いません」
現在の日本は婚姻が減って、離婚が増えている。2014年は64万9000件の婚姻に対して、22万2000件の離婚だ(厚生労働省調べ)。婚姻する3組に1組は離婚する。村上さんは一般家庭に育ち、就職し、寿退職して子育てした典型的な一般女性だ。やるべきことはやりながら貧困に苦しむ彼女がしたことは、堕胎を拒否して離婚し、元夫は養育費を払ってくれなかった。ただ、それだけだ。
「シングルマザーは日々おカネと時間に追われている生活。抜ける方法って、何かありますか。再婚か、もしくは宝くじで一発逆転くらいしか浮かびません。でも宝くじはまず買えない、それに子どもが3人いて誰が再婚してくれるのでしょう。“子どもが3人いますけど?”って言ったら、普通の男性だったら引きますよ。10年くらい前、男性と付き合って相手のご両親にあいさつに行ったけど、普通に反対されました。自分の息子がそんな女性連れてきたら反対するし、当然と思う。だから、どうにもならないのですよ」
Facebookに黙って「いいね」を押す
話は終わった。気がつけば、空は暗くなって団地のそれぞれの家に明かりが灯る。子どもたちの声が聞こえる。村上さんは外国製の端末に格安SIMを搭載したスマートフォンを持っている。Facebookを眺めていた。
「高校、短大時代とか、前の会社の友達です。友達は35人くらいしかいないですけど。みんなディズニーランド行ったとか、海外旅行行ったとか、有名な店に行ったとか、そんな話ばかり。いつも黙って“いいね”を押しています。みんな自分と違う世界なんだなぁって。子どもたちとディズニーランドに一度も行ったことないし、外食すらできないけど、もうそれは仕方のないことです。そう仕方ない、すべてが仕方ないことですから」
明日、明後日の生活、そして子どもたちのことで精いっぱいだ。長男は就職活動中、高校進学しない長女は心配だが、何とかなると信じるしかない。現在、中学1年の次男の中学卒業がひとつの区切りである。子育てが終わったら昼だけでなく夜も働き、なんとかFacebookの友達たちと肩を並べる「普通の生活」をしたいと思っている。
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