一方では、大勢のギュレン派の兵士や士官が逮捕されたことで、トルコ軍の体制の立て直しには多少の時間がかかると言わざるを得ない。欧州諸国の関心事はトルコがクーデターの問題処理のためにエルドアン大統領の強権政治が影響して死刑制度を復活させることである。トルコが死刑制度を復活させればEUからの非難が集まり完全にEU加盟が流れ、NATOから締め出される可能性すら考えられる。
クーデター未遂事件直後に、ギリシャの首相であるツィプラス氏は、亡命を求めてきた兵士を受け入れないと断言したが、結局は8名の大物司令官について2カ月間だけ滞在の猶予を認めたようだ。仮にトルコ政府が死刑制度を再導入するならば、EU加盟国であるギリシャは兵士の送還を行わない可能性もありうる。エルドアン大統領は権力の掌握を急いでいるために、対抗する勢力に厳しい取り締まりを行うとの見方が強いようだ。
私見では、エルドアン大統領は死刑制度をやるぞやるぞと見せながら、最終的には絶妙なバランスで欧米からの妥協を引き出すような気がする。問題を棚上げにしながら経済の立て直しを優先するのではないかと思っているが、5万人粛清の深刻さを考えると、一寸先は見えない。英BBCや米国のメディアによると、今回の未遂事件の裏にはCIAがかかわっているとの観測もあるようだ。
ロシアとの関係にもふれておこう。2015年11月の戦闘機事件以来、プーチン大統領とエルドアン大統領が会話をしたことはなかったが、今回の事件で急接近しているとの情報がある。事件直後にプーチン大統領から直接電話があり、8月に会うとのニュースが流れた。
そもそも、戦闘機を落とした首謀者がギュレン派の下士官だったという疑いがあったので、エルドアン大統領とプーチン大統領が直接トップ会談を持つことでロシアとトルコの関係はよりよい方向に進むことが期待される。ロシアに対する経済制裁でストップしていたトルコからの農産品輸出が再開し、天然ガスの対トルコ供給の安定性が確保されれば、両国にとっても友好の証となる。
狼狽売りは一巡しても外貨流入は期待できない
クーデター当日の7月15日に1ドル2876リラから終値3012リラまで暴落したが、26日現在では3038リラを付け約5%の暴落率である。ちなみに、円は英国のEU離脱時に1日で9.3%暴騰して106円台に戻っているのだから、トルコの為替の影響は想定内である。逆に言えば、クーデター未遂事件の結果、不安材料が出尽くしたという見方もある。トルコの株式市場では13%超下落したので、為替も株式市場も狼狽売り状況といえる。
しかし、狼狽売りが一巡したら徐々にリラは買い戻され、株式市場も行き過ぎが是正される可能性があるだろう。個人的な相場観からすると、8月に入りセリング・クライマックスが終了し金融界の専門家たちは底を拾う流れになる。それでも、クーデター事件が完全に片付き平静さを取り戻すまでは、投資家の動きは弱含みで推移するだろうし、外国の投資家の一部もトルコから資金を逃避させる動きも否定できない。
また、観光客も足を運ばなくなり、トルコの外貨獲得の比率の高い観光収入は減少するのは間違いない。民間企業の投資によるドルやユーロなどの外貨流入も一時的に止まる見込みが強いと考えられる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら