隠岐「島宿」が"大入り民宿"に大化けした理由 後継者を育てなければ宿は消え地域衰退へ…

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なぜ、旅館業が減少しているかというと、その最大の理由は「後継者がいない」ためだ。企業として経営している旅館は、今後なくなる可能性は低いかもしれないが、家族経営の民宿は果たして生き残れるのか。

家族経営の民宿は事実上、宿を切り盛りしているのは女将さんであることが多い。主人はサラリーマンとして稼ぎ、息子や娘は都会に出てしまえば、女手ひとつで宿を守ることになる。一方で、宿泊業以外のまとまった収入があるとなれば、客商売の民宿をあえて存続させる必要もなくなってくる。そう考えてしまうと、家族経営の民宿はどんどん減少していく。宿が減れば地域への観光客数も減る。地域衰退の悪循環にはまっていくのだ。

また、民宿は家族経営である限り、客室稼働率を上げるのは難しい。家庭には様々な所用があるし、女将さん個人の都合もある。旅館業の平均客室稼働率は35%(観光庁調べ)と言われる現在、地域の灯を消さないためには、まずは「専業」として民宿が生き残る道を模索することが重要だ。そのためには、宿の灯を守る後継者を育成することだ。後継者は子息でなくてもよい。所有と経営を分離し、ゲストハウスを立ち上げるような若い人たちに運営を任せてもよいのではないか。

それを実現しつつある町が、実は日本海に浮かぶ島にある――。

島根県・隠岐諸島の海士町は再生モデルだ

10年間で400人を超すIターン者が移住してきたことで知られる島根県隠岐郡の海士(あま)町。隠岐諸島のひとつ、中ノ島にあるこの町は、民宿を守り育てるモデルを開発した。

海士町観光協会が作成した資料は興味深い。隠岐諸島4町村の宿の「受け入れ可能定員」と「客数」の推移を、平成19(2007)年を100として指数化したものだが、受け入れ可能定員が減っていない海士町だけが、客数を伸ばすことができている。

 

他町村の宿が減ることによる漁夫の利もあったと思うが、「受け入れ可能定員数が減っている他町村では客数も減る一方」なのとは対照的だ。

「宿が減れば、観光客は減る」――。この自明とも思える論理から、海士町は民宿を守り、その灯を消さない取り組みを始めた。その主体となっているのが、一般社団法人・海士町観光協会と、観光協会が主体となり設立した株式会社・島ファクトリーだ。

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