ISは本当にイスラーム原理主義なのか ダッカ"女性"人質殺害事件が物語る変質

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イスラーム研究者で、元駐リビア大使・塩尻宏氏夫人の塩尻和子氏は、東京国際大学の論文でこう指摘する。

「イスラームでは、女性の地位と権利が明確に規定されており、草創期から、神の前では男女は全くの平等であるという思想が定着していた。精神的な側面だけでなく、遺産相続や結婚など世俗的な側面においても、女性の人権に関心を示している。たとえばイスラームでは、男性の2分の1ではあるものの、妻に遺産相続権が認められている。イスラームが創唱された 7世紀初頭の世界では、妻に相続権を認める考えはどこにもなかったし、世界的にみても、妻の遺産相続権を明確に規定した法律は、近代までほとんどみられなかった」。

ではISは変質したのか。

シリアやISに詳しい高岡豊・中東調査会上席研究員は「イスラーム過激派にとって、女性は長期間、人質として扱うには厄介な存在。拘束の手間もかかるので、これまでは早期に解放する傾向が強かった」と語る。

さすがにダッカ事件は、スンニ派イスラーム法学者も非難する。「イスラム教スンニ派の過激派組織イスラム国によるものとみられるバングラデシュでのテロを受けて、エジプトの首都カイロにあるスンニ派の最高権威『アズハル機関』は3日、声明を発表し、『無実の人々を殺害した残酷なテロ行為はイスラムの教えとは全く関係ない』などと非難した。」(読売新聞7月3日配信)。

自分たちのイスラーム教が正しい?

前述の高岡氏は、「イスラーム法学者はテロを非難するファトワ(勧告、見解)を出すだけでなく、イスラーム法学者が積極的に動いて、こうしたISテロをなくす努力が必要だ」としたうえで、「ISは自分たちだけを<良いイスラーム教徒>と位置づけ、その他のイスラーム教徒やキリスト教徒を<異教徒、不信者>と二項対立的に考えるので、自分たちのイスラーム教解釈を正しいとする。イスラーム教に反する行為だと認識しない」と解析する。

事実、ナイジェリアやシリア、イラクなどでは異教徒として扱った女性を多数捕獲して、戦利品として戦士に配分したり、売って金銭を得る行為も目立つ。

ISはイスラーム教への復古(サラフィー)を旗印にするが、異教徒の一人からみると、ダッカ女性人質殺害事件のように、現実の行動はかなり原理と背理しているように思える。ただし、高岡氏は、「われわれのような非イスラーム教徒が、いくら意見を述べても効果はないし、届かない。イスラーム教のウンマ(共同体)内で自浄すべき課題だ」としている。

内田 通夫 フリージャーナリスト

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うちだ みちお / Michio Uchida

早稲田大学商学部卒。東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』の記者、編集者を歴任。

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