子なし夫婦「私は夫を尊重して産まなかった」

それでも掴んだ、彼女なりの幸せ

ある日、『チャイナブルー』で食事をした後、汐留西公園まで手をつないで散歩し、ベンチに座ると真治はカルティエの婚約指輪と一緒にプロポーズをした。美和子がそれを受けると、真治は子供についての考えを何度も確認し、彼女の意思が固いことを知ると強く抱きしめ「本当にありがとう。必ず幸せにします」と少しだけ涙を浮かべて、力強く言った。彼の温もりを全身で感じながら美和子は、自分の選択は間違っていないと心から思えた。

それから、結婚10年目となる今も仲の良い夫婦関係は続いている。美和子の両親は娘の決断に最初は反対したが、彼女の意思の強さを感じてすぐに何も言わずに見守ることに決めたようだ。

結婚2年目の頃に、夫婦共通の趣味を持とうと話し、美和子はゴルフを始めた。ゴルフ好きの彼に、まずは打ちっぱなしに何度か連れて行ってもらい、「実践が大事だよ」と説得されるままコースを回るようになった。

最初のスコアは今思えば散々な結果だったが、彼に「初めてでこれは上出来だよ」と褒められ気分を良くして以来、時間を作っては彼と一緒にコースを回るようになり、スコアも僅かずつだが伸びてきている。

以前はビーチとショッピング目当てに行っていたハワイも、最近ではゴルフのために行っているようなものだ。お互いに仕事のスケジュールを調整して、ハワイのコースを回るのが何よりの楽しみとなった。

とても穏やかな安定した毎日

真治に対しての大きな不満もない。結婚当初と変わらずに彼のことを愛していると自信を持っていたし、彼も同じ気持ちでいてくれているのはわかる。だから、養育費を払い続け、年に一度四国へ行く彼を見送ることも、彼の義務と権利であると理解している。

それはとても穏やかな安定した毎日で、今でも彼がグラスを持つ手が愛しいと思えることに自分でも少し驚いているくらいだ。

結婚前と同じように女友達で集まることも多く、恋愛よりも美容関連のトピックが一番盛り上がるようになった。美容家電の良し悪しや最新のエステ情報にトレンドのスーパーフードの調理法など、話題は尽きない。

だが正直な所、結婚後に一度だけ子供のことを考えた時期はあった。

美和子が38歳の時。産めるリミットが迫ってきた頃だ。それはただ、本能的なものだったのかもしれない。その時は、子供を持たない自分の人生を改めて考えた。後悔とは違う、自分への確認のようなものだ。

だが、心を乱すこともなく、彼と一緒に過ごすことが自分にとって一番大切な生き方なのだという考えが揺らぐことはなかった。彼の意思を尊重した上ではあるが、産まないことは自分の決断であることに変わりはないからだ。

美和子の生き方に疑問を持つ人がいることは、彼女も十分わかっている。「主体性がない」と思う人もいるかもしれない。だが、10年経っても変わらずに愛し合える相手と一緒に居られる彼女が、彼女なりの幸せを掴んだことは確かな真実であるようだ。

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