島崎氏からのこうした指摘を踏まえて規制庁は今般、「武村式」と呼ばれる別のモデル式を使用して基準地震動の試算をした。ところが島崎氏によれば、「規制庁による計算と関電の計算ではパラメーターの設定に違いがあるうえ、規制庁の計算では不確定性がきちんと考慮されていない」という。要は正しく比較検討されていないというのだ。
島崎氏の田中委員長宛て書簡によれば、「あくまで私の試算」(島崎氏)だとしたうえで、武村式を用いた場合の加速度が大飯原発の基準地震動である856ガルを大幅に上回るとの結果が記されている。記者会見で島崎氏は慎重に言葉を選びながら、「数字は推定ではあるが、現在の基準地震動を超えてしまうことは確かだ。かなり問題がある」と述べた。島崎氏は「試算結果の数字が一人歩きされると困る」というが、試算結果の一部(最大値1550ガル)は関電が2011年に公表した大飯原発3号機のストレステストで「クリフエッジ」(安全限界)とされる1260ガルを大幅に超えている。対策をせずに放置した場合、炉心溶融など過酷事故につながるおそれもある。
原発再稼働そのものに赤信号も
大飯原発の再稼働の前提となる安全審査会合で当初関電が示した基準地震動は700ガルだった。その後、規制委との議論を経て856ガルに引き上げておおむね了承を取り付けた経緯がある。これを踏まえて関電は重要設備の耐震補強を進めつつある。
それだけに、「856ガルでは足りない」(島崎氏)ということになると耐震設計を見直さなければならず、安全対策費用は急膨張が必至だ。のみならず、近隣住民の不安の高まりから、再稼働そのものに赤信号が点滅する可能性もある。
7月13日の記者会見で田中委員長は、大飯原発と同様に地震動評価に「入倉・三宅式」を用いている関電・高浜原発や九州電力・玄海原発について、地震動評価をやり直す必要はないとの認識を示した。だが、大飯原発で持ち上がった疑問を解消できなければ、高浜や玄海で「試算をやらなくていい」ということにはならないだろう。
さらに深刻なのは、規制委による地震動評価の信頼性に疑念が生じていることだ。島崎氏が委員長代理を退いた後、現在の5人の委員の中には地震動評価の専門家はいない。
今回、島崎氏から提起された指摘に的確に答えられる委員がいない状況は、原発の安全審査を進めていくうえでも大きな問題だ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら