リターンだけ20%高める「魔法の資産運用」 確定拠出年金で効率よくおカネを増やす方法

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さて、両者を比べてみましょう。前者の利益合計額は1万2500円、後者の利益合計額は1万5400円、なんとまったく同じ金額で同じ比率であるにもかかわらず、後者のほうが23%も利益が増えています。まさにリスクを高めずにリターンを高めることが可能になっているのです。これは米国において考えられた「アセット・ロケーション」と言われる考え方で、わが国ではI-Oウェルス・アドバイザーズ社長の岡本和久さんによって紹介されました。異なる制度間で資産の置き場所を決めるというのは、とても良い考え方だと思います。

どういうルールで置き場所を変えればいいか?

では置き場所を変えるには、何か法則があるのでしょうか。答えは「期待される利益の大きなものを確定拠出年金の口座に置く」ということです。もっと簡単に言えば、儲かる可能性の大きなものを確定拠出年金で利用するということです。これはちょっと考えてみればすぐわかります。

たとえば家電量販店で全店5割引という大セールの時に、わざわざ電球1個買いに行く人はいないでしょう。せっかくなら、日頃から買いたかった高額商品を買うのが普通です。同じように何でも非課税にしてあげるというのであれば、できるだけ高い利益の見込めそうな金融商品をそれに当てはめるのが合理的な考え方です。

ところが、中にはこういう意見の人もいるでしょうね。「そりゃ、儲かる可能性の高いものが良いというのはわかるけど、そういうものは同じぐらい損する確率も高いんじゃないか? だったら安全な定期預金にしておいたほうがいいんじゃないの」

これは確かにそのとおりです。特に“儲かる可能性の高いものは同じぐらい損する確率も高い”というのは、まったく正しい考え方です。でも、もしリスクを取るのが嫌なら、課税であれ、非課税であれ、一切投資性商品は購入せずに、どちらも全部定期預金にすればいいだけの話です。ここで議論しているのは、もし一定割合を投資性の商品で運用するならどうするのか、という話ですから、それであれば、儲かる可能性の高い投資性商品を非課税にしたほうが良いということなのです。

同じことは、実はNISAでも言えます。NISAは「少額投資非課税制度」という名前のとおり、株式や投資信託等の投資性商品しか利用できません。その場合でも利益の多寡にかかわらず、利益が出た場合はまったく税金がかかりません。逆に損失が発生した場合にも他の利益と損益通算できないわけですから、論理的に考えると下落リスクよりも上昇した場合の利益の可能性を優先してNISA口座に充てるべきではないかと考えます。

「制度」というのは、市場原理とは離れたところで存在するものです。もちろんその「制度」を利用できる金額には上限がありますが、そういう特別に有利な「制度」が存在する以上は、それをうまく利用することで、自分の資産形成に大きくプラスに働くことがあるということは知っておくべきでしょう。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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