「ヘリコプターマネー」で日本経済は救えない これはダメ政策の「看板」をつけかえただけ

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さらにいえば、2%の物価安定目標という困難な目標を達成するために、「マイナス金利」や「ヘリコプターマネー」といった副作用の大きい政策を打っていくことが、本当に正しい選択なのか疑問だ。

「ヘリコプターマネー」など中央銀行が政府の要請に応じて国債を引き受けるという「財政ファイナンス」は、軍事費の確保や、国際社会から資金調達が不可能になったような非常時に政治的に利用されてきた政策であり、「中央銀行が政府からの独立性を失う危険性が高い」という理由等から、専門家の間で慎重論が多いものである。

また、忘れてならないことは、「異次元の金融緩和」を続けていけば、必ず「財政ファイナンス」に行き着くということである。

「マイナス金利付き量的・質的緩和」によって日銀が国債全体の3分の1を保有する最大の投資家になっている。問題なのは、これによって利金と償還金の3分の1が日銀に入るということ。

民間企業が国債を保有しているのであれば、利金と償還金は民間企業に入る。これは民間企業に国債に再投資する資金が渡るということである。

魅力のない商品の「ネーミング変更」と同じ構造

しかし、日銀が最大の国債保有者になるということは、利金と償還金は日銀に渡ることになる。つまり、国債に再投資する資金を持つのは日銀なのだ。ということは、国が国債を発行して資金を集めようとすると、日銀に直接買ってもらう以外になくなるということだ。

「異次元の金融緩和」を続けていけば、結局中央銀行が政府の国債を直接引き受けるという「財政ファイナンス」に行き着く運命にある。

その際に、政府はそれを負債と認識するか、日銀から政府に対するお布施である「ヘリコプターマネー」に分類するか、判断を迫られることになる。

アベノミクスを推し進めてきたこの3年半で明らかになったのは、「金融政策は潜在的な有効需要(購買力を伴う需要)を引き出すことは出来ても、有効需要を作り出すことは出来ない」ということである。

もはや事実上行き詰った「マイナス金利付き量的・質的緩和」を「ヘリコプターマネー」に切り替えたとしても、所詮それは、歌唱力の伴わない歌手や魅力のない商品のネーミング変更のようなものでしかない。

現在の日本に必要なのは、「アベノミクスのエンジンを最大限に吹かす」ことではなく、違う道を探すことだ。バーナンキ前FRB議長の見識は尊重するに値するものかもしれない。しかし、現在彼が米大手ヘッジファンドのシニアアドバイザーに就いていることも忘れてはならない。

近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト

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こんどう しゅんすけ / Shunsuke Kondo

1957年東京生まれ、早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現野村アセットマネジメント)に入社。株式、債券、先物・オプション取引等を担当した後、野村総合研究所に出向しストラテジストとして活躍。再び、野村アセットに戻ってからは、担当ファンドが東洋経済の年間運用成績第2位に選出されるなどファンドマネージャーとして活躍。その他、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、1996年に野村アセット初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は金融や資産運用に関する客観的な知識を広めるべく、合同会社アナザーステージを立ち上げ、会長兼CEOとして、一般向けの金融セミナーや投資セミナーなど専門家向けセミナー等も開催中。自身が手掛けるメルマガ『マーケット・オピニオン』は、個人投資家から圧倒的な支持を得る。

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