浜矩子教授「EUはもはや時代遅れの組織だ」 「これから次々に離脱してもおかしくない」

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では、やはり、離脱が多数を占めたイギリス国民の判断は正しかったのか。

「イギリスのEU離脱は、正しい結論ではあるが、その動機は一部、決して正しいものではなかった。というのも、離脱に票を入れた人の多くが、米国のドナルド・トランプ氏を支持している人々と同様の、右翼民族主義的、かつ内向きの政治思想を持った人達だからだ。今回の国民投票は本来、EUが持つ前時代的な窮屈感が問われるべきものと認識しているが、結局のところ、それ以上に時代錯誤な排他性、人種差別的な思想を持つ民族主義者の声が大きくなり、争点がズレたように思える」

このままイギリスは離脱への道を、粛々と進んでいくのだろうか。まだひと波乱も、ふた波乱もあるだろうというのが浜教授の見立てだ。実際、離脱派の中心的論客で次期首相候補とされたボリス・ジョンソン前ロンドン市長は、保守党の次期党首選に立候補しないことを決めた。また、EUからの離脱に反対している残留派が、国民投票のやり直しを求め、すでに300万人を超える署名を集めている。

他のEU諸国も離脱する可能性

「民主主義のプロセスを考えれば、今回の国民投票によって出た結論を覆すための再投票を行うのはおかしい。仮にもう一度再投票を行って残留派が多数になったら、今度は離脱派が再投票を求めてくる。これではいつまで経っても結論が出ない。もし再投票をするのであれば、たとえばEU域内の国籍取得者は、原則としてどのEU加盟国に住んで働いても良いというルールを、EUがイギリスに対してだけ特例を設け、制限できるようにするなど、大きな譲歩が行われた時だ」

イギリスにおける国民投票の結果を受けて、ドイツ、フランス、イタリアに、ベネルクス3国を加えた欧州石炭鉄鋼共同体の原加盟国6か国は、今後の対応策を話し合った。今回の結果で追い込まれているのは、むしろEUの側なのかも知れない。

「EUから離脱すれば、イギリス経済はEUのつまらない規制から解き放たれ、のびのびと活動できるようになる可能性がある。実際にそうなったら、現在のEU加盟国の中にも、イギリスと同じように離脱の道を模索するところが出てくるだろう。ギリシャやイタリア、スペインなどは政情不安の渦中にあり、いつ離脱を宣言するかわからない。ECSCの原加盟国が鳩首協議を行ったのは、EU崩壊に対する危機感が、かつてないほどに高まっているからだ」

鈴木 雅光 JOYnt 代表、金融ジャーナリスト

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すずき・まさみつ / Masamitsu Suzuki

1989年岡三証券入社後、公社債新聞社に転じ、投信業界を中心に取材。2004年独立。出版プロデュースやコンテンツ制作に関わる。著書に『投資信託の不都合な真実』、『「金利」がわかると経済の動きが読めてくる!』等。

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