バングラデシュを襲った過激派「JMB」の正体

政府が唱える"IS関与なし"は本当か

この脅威は、2014年10月2日にインド西ベンガル州ブルドワンで起こった爆破事件で、明るみに出た。インド西ベンガル州で、政権与党トリナムール会議派事務所の2階に部屋を借り、爆弾を製造していたテロリストたちが誤って爆弾を爆破させて死亡。その後、現場からは、50以上の爆弾やタリバンのビデオ、偽造パスポートなどが押収されたからである。

同組織は、インドのテロ組織「インディアン・ムジャヒディン(2008年のムンバイ同時テロへの関与が疑われる)」とも連携している。インドとバングラデシュは、国境周辺がテロの温床となる危機感を共有している。過去数十年、インドとバングラデシュにおける諜報機関の協力では、バングラデシュがインドへ情報提供を行う一方、インドはバングラデシュへの情報提供の要請に対して消極的だった。しかし、同事件以降は、両国の諜報機関の間で相互協力が行われているとみられる。

バングラデシュは、ヒンドゥー教極右団体を支持母体に持つインドのモディ政権となぜ親しくできるのか、不思議に感じるかもしれないが、自然なことだ。その前提には、同国は人口の9割がイスラム教徒である一方、憲法で「世俗主義(政教分離)」を保証する国家で、イスラム国家ではないということを理解する必要がある。この点でパキスタンとは異なる。

政権与党「アワミ連盟」も、世俗主義を掲げ、イスラム教と適度に距離を置く中道左派的政権である。親インド、反パキスタンだ。一方、事実上の最大野党である、「バングラデシュ民族主義党(BNP)」は(直近選挙をボイコットしたため議席はゼロ)、イスラム寄りで、この逆となり、反インド、親パキスタンとなる。つまり、域内2大国の間で、揺れ動きやすい。イスラム国家建設を夢見る過激派にとって、世俗主義を掲げる現政権は敵であり、利害の一致するパキスタンは友となりやすいのだ。

今回の事件後、バングラデシュのハサヌル・ハク・イヌ情報相は、テロリストへの武器供給で、パキスタンの諜報機関である軍統合情報局(ISI)の関与があったことを示唆した。ISIによるJMBへの関与疑いについて、最近の事例では、2015年12月にスパイ容疑でJMBのメンバー4人(うち1人はインド人)を逮捕した事件がある。

当局の発表では、メンバーの1人イドリス・シェイク容疑者は、1985年にインド経由でパキスタンに渡り、現地で結婚、2007年にバングラデシュに戻った後、JMBでテロ活動に関与するようになったという。さらに「パキスタンへの渡航歴48回」「諜報機関ISIとの密接な関係があった」とも供述した。同容疑者はその後、ダッカ裁判所で「在バングラデシュのパキスタン女性外交官から金銭を受け取った」、とも証言している(パキスタン政府は容疑を否定している)。テロ支援にISIが関わっているというのが、バングラデシュ政府の見立てである。

斬首・銃撃など残虐な事件が相次いでいた

現場となった首都ダッカのグルシャン地区の中心部。普段の風景からは、悲惨なテロの様子を想像できない(筆者撮影)

さらにバングラデシュ政府は、このJMBとバングラデシュの野党「イスラム協会(ジャマーティ・イスラミ)」がつながっている、とも指摘している。同政党は穏健的ではあるが、イスラム原理主義政党で、バングラデシュ独立前のパキスタンの政党が前身であり、パキスタンとの関わりも深い。

同党は2001年から2006年まで、バングラデシュ民族主義党(BNP)とともに連立政権を組んでいたが、ハシナ政権下で2013年に非合法化し、今年5月には同党党首の死刑執行まで行った。6月にはBNP党員の大量逮捕に踏み切るなど、テロ対策に名を借りて、野党へ政治弾圧も行っていることは否定できず、その強権ぶりは非難されてしかるべきだ。

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