巨大機関投資家GPIFは「危機的状況」にある もはや株式市場の「救世主」にはなれない
多くのメディアが「英国EU離脱ショック」に伴う円高・株安によって、公的年金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が大きな運用損失を抱えた可能性を報じている。そんな中、7月1日にはGPIFが2015年度の決算で5兆数千億円の運用損失を計上することが明らかになった、と報じられている(公式発表は7月29日の予定)。
問題の本質は「巨額の運用損失」ではない
ここから何が推測できるだろうか。GPIFの5兆数千億円の運用損失は、国内株式が約12%下落し、約6.5%の円高が進んだ2015年度でのものだった。「英国EU離脱ショック」などで、4月以降国内株式が10%超下落し、円高が8%強進んでいることからすると、GPIFがこの4-6月期に2015年度と同規模の損失を出していても不思議ではない。
こうした状況を受け、2014年10月から実施された「基本ポートフォリオの変更」(国内株式を25%(±9%)にまで引き上げるなどの運用見直し)に対する批判や、「アベノミクスそのものの失敗」を指摘する声も強まっている。
確かに、「基本ポートフォリオの変更」は結果からみて失敗だったことは明らかである。しかし、運用損が膨らんだから「基本ポートフォリオの変更」は間違いだったという批判も、「安倍政権発足以来の3年間では約38兆円の運用益が出ている」という反証も、必ずしも建設的なものだといえないし、本質的問題を見誤らせるものでもある。
簡単に言えばGPIFは、国民が納めた年金保険料と、給付する年金額の差額を運用している。それゆえ、GPIFの運用資産は、現役世代が多く年金保険料収入が年金支給額を上回る局面では増加し、逆に高齢化が進み年金支給に伴う支出が年金保険料収入を上回る局面では減少していくことになる。
GPIFの資金流出入状況をみると、リーマン・ショックが起きた2008年度にはネットで7兆円を上回る資金がGPIFに流入している。しかし、リーマン・ショックの翌年2009年度から流出に転じ、2014年度の資金流出額は約4.3兆円となっている。
つまり、リーマン・ショックの際は、リスク資産の下落に見舞われたが、GPIFに新規資金が流入していたため、リスク資産を安値で買い増すことが可能だった。
これに対して資金流出主体に転じている現在のGPIFは、相場状況に関係なく保有資産を売却し年金給付のための資金を確保しなければならない状況にある。
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