巨大機関投資家GPIFは「危機的状況」にある もはや株式市場の「救世主」にはなれない

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保有資産を売却して年金給付のための資金を確保する必要に迫られているGPIFは、たとえリスク資産が下落し安い価格になっても、保有資産を売却しなければならない。株価が下落するなかで必要な資金を確保するために保有資産を売却するということは、自らの行動がさらなる株価下落を招き、売却する資産の数を増やさなければならないという悪循環に陥ることになる。

こうした状況の違いを考えると、今回の「英国EU離脱ショック」は、日本の公的年金の運用に「リーマン・ショックをはるかに上回る衝撃」を与えたといえる。

しかも問題なのは、GPIFが「リーマン・ショック以上の衝撃」を受けたのは、自ら招いた「人災」というところにある。

「年金運用の定石」に反する運用を行うGPIF

基本ポートフォリオが、国内債券35%(±10%)、外国債券15%(±4%)、国内株式25%(±9%)、外国株式25%(±4%)に変更されたのは2014年10月であり、GPIFが資金流出主体に転じたのは2009年度からである。

つまり、基本ポートフォリオの変更を検討する時点でGPIFは資金流出主体だったのだ。資金流出主体に転じたGPIFのポートフォリオを、株式への投資比率を増やすことでリスクを高めていくという方針は、「成熟度が低い年金はリスクを多めに、成熟度の高い年金はリスクを抑えめに」という年金運用の定石に反するものである。

資金流出主体がリスク資産への配分を増やせば、今回のようにリスク資産が急落する局面で、価格の下落を追いかける形で資産売却に追い込まれることは、「政治的不確実性」とは異なり、「運用上確実なこと」なのである。

GPIFが資金流出主体に転じていたことを考えれば、リスク資産を増やすという投資方針の変更を行うのであれば、もっと慎重な検討と議論が必要だったはずだ。

資金流出主体となっているGPIFは、株価が下落すればするほど必要な年金給付金を確保するために、売却資産の量を増やさなければならないし、それは若い世代の残す資産の量を減らしていくことだからである。

また、次世代に残す資産の量が減るということは、今後市場が落ち着きを見せて元の水準に戻っても、資産の金額は元に戻らないということである。量が減ってしまっているのだから。

日本の財政に関しては「次世代にツケを残すな」と叫ばれているが、公的年金の分野では「次世代にツケを残す運用」が平然と行われている。

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