今からでも遅くない、「丸飲み首相」に変身すべし

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今からでも遅くない、「丸飲み首相」に変身すべし

塩田潮

 去年9月、総裁選の直前に行われた公開討論会で、福田現首相は「国の最高リーダーに必要なものは」と聞かれて、「決断。中でも辞めるときの決断が一番、重要」と答えた。7ヵ月後の現在、あまりの不人気で、「次期総選挙は別の顔で」という声が与党内で拡大し始めた。ひょっとして胡錦涛・中国国家主席離日を見届けたところで「電撃退陣の決断」に走るのではという観測もないわけではない。

 とはいえ、「無実績の超短命首相」で終わる不名誉だけは避けたいはずだから、走れるところまで走る腹かもしれない。野党抱きつき作戦は奏功せず、4月から対決型の「闘う首相」に転換し、この路線で突っ走る方針のようだ。
 だが、福田首相は政権発足のときから根本のところで現状認識と発想が間違っていたのではないか。「強すぎる参議院」といった制度の是非論は別として、政治のリアリズムに徹するなら、現憲法の二院制で衆議院の多数勢力の思いどおりになるのは予算の議決、条約の承認、首相の指名の3点だけだ。法律の議決は「みなし否決・60日ルール・衆議院の3分の2の再議決」が必要で、それ以外は衆参同等だから、極論すれば、首相獲得と予算と外交以外は野党案の丸飲みか大幅譲歩しか政権運営の道はないと知るべきであった。

 その代わり、政策について責任を負う野党も失敗や不評について当然、批判や攻撃を受ける。福田内閣は敗北主義、半権力政権、名ばかりの代行内閣と悪評を浴びるが、それは昨年の参院選に表れた民意の結果である。福田首相は官房長官最長記録保持者とはいえ、議員生活18年余で、政治歴は乏しい。経験不足による政権担当のノーハウの欠如が響いている。
 いまからでも遅くない。「闘う首相」から「丸飲み首相」に変身すれば、意外に活路が見つかるのでは。
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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