「A5」の肉が最も美味しいとは限らない理由 「儲かる牛」と「美味しい牛」の違いは何か

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ところが明治以降、日本にも肉を食する文化が入り、政府は体の大きな肉牛を育成するよう奨励したため、海外の体の大きな血統と交配して増体系の生産効率がよい品種を作り出していったのである。現在では、外国の品種との交配は行われなくなり、長い時間をかけて「和牛」は純血に近づきつつある。

そうして増体系の「去勢牛」が肉牛の中心となり、あまり大きくならないメス牛に高値はつかないのが現実であるが、お肉の味は必ずしも体の大きさに比例しない。

たとえば、高級黒毛和牛として知られる松阪牛はすべてがメス牛である。理由は明確だ。体の小ぶりなメスのほうが、味がいいことを生産者は経験知として知っているからだ。体の大小にかかわらず、牛一頭を構成する細胞の総数に相違はない。体の大きな牛ほど細胞一つひとつの体積は大きく、小さな牛は体積が小さい分、その中に肉のうまみがギュッと詰まる。

同じ条件で育てられた場合、体の小さなメス牛のほうが美味い。それがこの業界の定説である。そこで、増体系のオス牛も、生後まもなく「去勢」され、男性ホルモンを低減させ、メス化させることによって味を向上させるのが通例になっている。

とはいうものの、古くからあるブランド牛はメス牛が中心であるにせよ、昭和後半から広まった中興ブランド地域では、去勢牛が飼育の主体である。「大きく育てて高く売る」という経済原理の中で、「小さくても美味しい牛を作る」という思想は、常に挑戦であるということがご理解いただけるだろうか。

長く育てると、味がよくなる。

美味しい肉を作ることの条件として、「肥育月齢」の差もあげられる。「儲かる牛」を作りたければ、早く大きくして早く売るのが手間賃も飼料も安く上がり理想的であり、体の大きくなりやすい去勢牛を選んで早期育成できるように飼料を設計する。

しかし、美味しい肉にこだわって考えると、やはり長期育成の牛のほうが美味しい。肉の美味さにこだわる肥育農家では、健康的な内臓を作る「腹(胃)作り」、しっかりとした体型をつくる「骨格作り」、美味しい肉をつける「肉作り」、和牛の評価を決めるサシを入れる「脂作り」の4期に分け、時間をかけてそれぞれの時期に合った飼料を使い分けながら牛を育てる。飼料設計は、それぞれの農家が牛を「どのように育てたいか」という思想の表れなのである。

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