「A5」の肉が最も美味しいとは限らない理由 「儲かる牛」と「美味しい牛」の違いは何か
簡単に言えば、「どれだけお肉が取れるのか」「霜降りはどのくらいあるのか、外観から判断されるお肉の状態はどうか」といった観点から、いちばん高い格付けとなったお肉が「A5」ランクなのである。
市場では、天井に這うレールに吊られた枝肉が列になって検査官の目の前を流れていき、何人かの検査官が「目視」でチェックし、その場で「A5」や「B4」と書かれた赤いハンマー状のはんこをポンッと枝肉に叩いていく。以上で、枝肉の評価が確定し、競りにかけられるのである。ただ、果たしてこの評価基準の中に「お肉の美味しさ」を示す尺度がどれだけ含まれているだろうか?
A5は「美味しさ」の必要条件だが、十分条件ではない
お肉の格付けは、「肉の分量」「霜降りの入り方」「見た目の美しさ」などの基準になっているものの、「美味しさの基準」を満たしているわけではない。より正確に言えば、「好条件が揃っているA5ランクのお肉は、美味しいお肉であることが多い」ということになるだろう。
いくら霜降りがきれいに入っていても、脂の質が悪ければ美味しいお肉にはなり難く、粒子の粗いサシ(脂分)が入りすぎていれば胃がもたれたり、多くの量を食べられなかったりするものである。格付けが味の評価でないにもかかわらず、なぜ肉牛の評価はこのように決まってしまうのだろうか?
その理由は、牛の育てられ方に源泉がある。
肉牛の値段は、「重量×単価」で決まる。これは枝肉の競りでも、消費者が家庭用に肉を購入する場合でも同じことである。重量を決めるのは体の大きさ、単価を決めるのは脂の入り方に重要なポイントがある。重量と単価、それぞれの数字が大きいほど値段は上がり、生産者は儲けることができる。
生産者からすれば、同じ期間、同じ飼料を与えたときにより大きくなる牛の方が重量は大きくなり値段が高くなるため、そうした牛を育てたほうが生産効率は良い。こうして肥育農家(子牛を買って体を大きくする専門の生産者)は体が大きくなる「オス牛」を好んで育てようとする。血統的にも体が大きくなるものが選別される。
こうした牛は、「増体系」と呼ばれる。
そもそも日本古来の牛は体が大きくなりにくい種類であった。牛は農耕用に使われており、狭い畦道や山道を歩かせるのに小さなほうが都合がよかったということもある。
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