なぜ新聞は「紙」でないと儲からないのか? ニューヨーク・タイムズの苦境(下)

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デジタル事業で1ドル稼ぐとプリント事業で 27ドルを失う

デジタル版をいかに伸ばしても、プリント版の落ちはカバーできない。そう結論づけるリサーチも出されている。

調査会社のピューリサーチ・センターは、12年3月、「新聞社がデジタル事業で1ドル稼ごうとすると、代償としてプリント事業で7ドル失う」という調査結果を発表している。

また、メディア産業のコンサルタントのアラン・マター氏は、ウェブメディア『REFLECTIONS OF A NEWSOSAUR』の記事で、「新規のデジタル事業で1ドル稼ごうとすると、これまでのプリント事業で27ドルを失うことになる」という調査を発表している。

さらに、『ビジネスインサイダー』は、「この数字がなぜNYタイムズがジャーナリストをクビするのかを示している」というタイトルで、プリント版とデジタル版の収益構造について分析している。

この記事によると、NYT紙では、プリント版の読者1人につき、1年で平均650ドルの購読料(毎月50ドル強。日曜版を取るとそれ以上)と450ドルの広告収入が得られる。しかし、デジタル版だと1年の平均購読料は150ドルであり、広告収入は25ドルにしかならない。

出版・新聞 絶望未来』の中で、米国の新聞産業の苦境について詳しく説明している。

ということは、その差は全体で約8倍にもなる。広告だけでいうと、なんと18倍である。これでは、いくらデジタル版の有料購読者を増やしても焼け石に水ということになる。単純化して言うと、デジタル版だけで新聞を成立させるためには、たとえプリント版と同様に約100万人の有料購読者を獲得できたとしても、会社の規模を8分の1にしなければならないのだ。

やはり紙に立脚した新聞というメディアは、ビジネスとしてはもう終わったと見るべきなのだろうか? 「このままでは、プリント版のNYTはいずれなくなるだろう」という見方が、日ごとに現実になっていく。

山田 順 ジャーナリスト

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やまだ じゅん / Jun Yamada

1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年『光文社ペーパーブックス』を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の両方のプロデュースも手掛ける。著書に『出版大崩壊』『資産フライト』『出版・新聞 絶望未来』『2015年 磯野家の崩壊』などがある。

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