減益覚悟で番組強化 WOWOW最後の賭け
真っ先に取りかかったのが組織改編だ。それまで一体化していた編成と制作局を分割して独立。編成はどの番組をどの時間帯に組むのが最適かを編成する、制作はより上質な番組を制作する。それぞれ、文字どおりの本来業務に集中し、責任を明確化した。さらに営業局にあったプロモーション部を編成局に移管。営業主導の価格訴求による販促から、編成戦略に沿った販促体制を敷いた。
編成やコンテンツ強化も着々と進める。和崎氏が社長に就任する直前には「ドラマW」や映画の脚本家等発掘を目的とした「WOWOWシナリオ大賞」を創設。映画レーベル「WOWOW FILMS」を設立し、昨夏には第1作目「犯人に告ぐ」の公開にこぎ着けた。映画に関しては、出資作品も含めて年間5本公開を目指すほどに意欲的だ。
8月には2カ月に1本のペースで放送していた「ドラマW」を1カ月で3本集中放送。一方で、海外ドラマの比重を増やし、今年1月の改編では、平日夜11時は月曜日から金曜日、それぞれ日替わりで5本の海外ドラマを放映。「おかげで平日の接触率(リアルタイムの視聴率と録画を合わせたもの)は改善している」(黒水氏)という。ドキュメンタリー分野でも試作は続く。
チャンネル数を三つに拡大 目指すは日本版「HBO」
結果は少しずつだが数字に表れ始めた。08年3月期末の総加入者件数は前の期から4000人アップ。「この半年に打ってきた手、進んできた方向は間違っていない、という確認ができた」と和崎氏は自信を見せる。
ここへ来て新たに意欲を注いでいるのが、ハイビジョンでの複数チャンネルの展開だ。総務省は3月、地上波のアナログ放送終了と同時に、BSのアナログ放送も終了することを決定。空いた衛星に加え、新たな衛星も打ち上げる予定で、来年夏までには新たなチャンネル事業者を決定するものとみられる。
そこでWOWOWは、現在一つしかないチャンネル数を最大三つにまで増やす計画を打ち出した。和崎氏は「実は中計の中にもその“芽”を埋め込んである」と打ち明ける。中計を発表した1月末時点ではアナログ放送終了の時期が決まっておらず、明確にできなかったのだ。となれば、コンテンツ拡充はますます不可欠。「だからこそ、09年度から12年度まで徹底的に強化して、そこで花を咲かせ実をつけ、12年以降刈り取っていく」青写真を描く。
実はBSアナログ放送の終了は、WOWOWにとって開局来最大のピンチになりかねない大問題である。
デジタル加入者は増えているものの、08年3月末時点でも100万人弱がアナログサービスに加入している。このまま11年のアナログ放送終了を迎え、加入者が大量流出したらどうなるか。「そのためにも、3チャンネルを用意してアナログからデジタルへの移行を何としてでも促さないといけない」と、前出の佐藤アナリスト。1チャンネルで生き残るには限界がある。中期的に複数チャンネルはどうしても必要なのだ。
WOWOWが目指すのは米国のHBOだ。有料の映画専門チャンネルとして始まったが、一世を風靡した「セックス・アンド・ザ・シティ」など独自番組で人気を拡大。現在では5チャンネルを展開する。とはいえ、日本では、制作費の規模では地上波放送局に到底かなわない。その制作費の“差額”をどれだけ、創意工夫で埋めていけるのか。「(コンテンツの分野でも)他社と組む必要性がある」(佐藤氏)など、やるべきことは山積みだ。
禁断のパンドラの箱を開け、減益覚悟のコンテンツ強化策に乗り出したWOWOW。その先の希望にたどり着くまでの道のりは長い。
(倉沢美左 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)
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