減益覚悟で番組強化 WOWOW最後の賭け
BSに限らず、CS放送やケーブルテレビなど、有料放送市場の環境は全般的に厳しい。日本では、無料で視聴できる地上波放送局が圧倒的な制作力を持つため、有料放送は加入率20%程度で頭打ちが続いている。インターネットなど選択肢も増える中、わざわざおカネを払って加入するインセンティブは低くなるばかりだ。
スカパー提携も息切れ 「番組訴求」へ舵を切る
06年6月、WOWOWの総加入件数がとうとう236万件まで落ち込んだとき、佐久間昇二会長(当時)の肝いりで新会長として乗り込んだのが和崎氏だった。NHKの元プロデューサーで、衛星放送局長やデジタル放送推進局長を務めた経験も持つ放送業界のベテランである。
「WOWOWはポピュラーでハイエンドという認識が強く、局の側が視聴者を指名買いしていた」(放送アナリストの佐藤和俊氏)と言われるほど、楽天的というか、のんきだった。和崎新会長はすぐさま、積極的な加入者獲得策に乗り出す。
さまざまな施策の中で最も大胆だったのが、06年10月、ライバルであるスカイパーフェクト・コミュニケーションズとの提携だった。スカパー経由で視聴できるようにしたことで、加入者の裾野を広げることができる。翌月にはさらに、IP経由の映像配信サービスにもコンテンツ提供を開始。無料視聴や割引視聴などのキャンペーンも積極的に展開し、一般視聴者の加入獲得を促した。
ところが結果が出ない。そんな焦りが漂う中、和崎氏はより陣頭指揮を執りやすい社長に就任。その1カ月後、追い打ちをかけるようなデータが突きつけられる。07年第1四半期加入者数、前期末比5万人減--。「右肩下がりになっていくような状況で、社長を引き受けてしまったのか、と正直真っ青になった」と和崎氏。ショックは大きかった。
この瞬間、WOWOWは舵を切った。加入者獲得の戦略を、それまでの価格訴求から“番組訴求”へ一転させたのである。「テレビ局はやはり番組が命。だからもう一度、その路線に立ち返ろう、と」(和崎氏)。