トランプ対ヒラリー、「嘘つき」のたたき合い どちらが手のつけられない大嘘つきか?

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米国は深刻な問題に悩まされている。国内では深く根づいた格差、海外ではイスラム過激主義、中央政界の泥沼状態にも手をつけられそうにない。だがこれまでのところ、2016年大統領選挙では、もっぱらどちらの候補者が人格的に劣っているかという問題ばかりが目立ってしまっている。どちらが手のつけられない大嘘つきかという点も、その一部だ。

大統領選において候補者の人格に注目するのも悪くはないが、それほど単純な問題ではない。嘘をついているかどうかさえ、判断は容易ではない。候補者の発言のうち、どれが嘘で、どれが月並みなスピン(偏った政治的解釈)にすぎないのか、個人的な信念の主張なのか、気軽な談話のなかで誇張してしまったのか、有権者はどうやって見分けられるというのか。

その嘘が隠している事実は違法なのか

さらに、有権者は、話題を呼んだ「嘘」がどの程度重要かをどうやって判定するというのか。内容が公的・私的かという違いが重要なのか。過去の行動に関するものか、将来的な意志に関するものかで決まるのか。その嘘が隠している事実が違法であるか否かが重要なのだろうか。

だが心配はいらない。こんなややこしいことに取り組む必要はないのである。さまざまな「嘘」のうち、どれが民衆を怒らせ、ホワイトハウスへの道を閉ざすのか見きわめようと努力しても、過去の例から見る限り、そんな「嘘」を見つけることは困難だろう。

選挙運動において、間接的に真実をゆがめる行為に比べて、純然たる嘘が問題になる例は思ったより少ない。

嘘をめぐる問題が最も明確な形で表舞台に引きずり出されたのは、1884年の大統領選挙だ。共和党の候補はジェームス・G・ブレイン、民主党の候補はグローバー・クリーブランドである。民主党側は、ブレイン候補が汚職に関わっただけでなく、それに関して嘘をついているとして、同候補の不正直さを主要な争点にしようと熱心に試みた。

汚職が最初に告発されたのは1872年だった。当時は下院議長だったブレインが賄賂を受け取り、不正な鉄道契約をもみ消したという内容である。だが反ブレイン派はこの疑惑を立証することができなかった。

1876年、新たな汚職の噂が流れた。今回は、ユニオンパシフィック鉄道が、無価値な鉄道債を6万4000ドルで買い取るという手法でブレインに賄賂を贈ったという話だった。下院民主党は調査を強行した。議会での証言はブレインに有利なように見えた。だが、ある事務職員がこの取引の手配を手伝ったと証言し、それを証明する書簡を示した。そのうちいくつかは、末尾に「読後焼却のこと」と書かれていた。

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