舛添騒動の影響は大丈夫?「地域医療構想」 都民の健康を守る医療提供体制はどうなる

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単純にこの数字だけ見れば、2025年度の東京では、患者の治療に過不足なく対応するには、今のままだと約5600床のベッドが足りない、ということを示唆している。もしそれだけのベッドを医療機関で用意できなければ、2025年度の東京では、入院待ちの患者が常時5000人近くも出るかもしれない、ということである。

この数字に基づけば、約5600床のベッドを、今ある医療機関に増設するか、新たに病院を設置するかして確保できれば、2025年度の東京で必要とされるベッドを確保できることになる。しかし、医療機関とて、採算が合わないなら病床をむやみに増やそうとはしない。単に増やせばそれでいいというほど簡単なものではない。近隣地域の中で利害調整をしながら、先行きの見通しが立つようにしてはじめて、必要な病床が確保されることになる。繰り返すが、東京都において、病院の新設、既存の医療機関の病床の増加には、東京都知事の許可がいる。

利害調整の手腕を発揮できなければ失格

来月には都知事に答申する予定の「東京都地域医療構想」には、こうした将来の東京の医療のあり方に深くかかわることが盛り込まれる。構想をまとめる有職者会議には、都知事は出席しないとはいえ、粛々と案文は作成されてゆく。「東京都地域医療構想」の策定が佳境を迎える最中、公私混同疑惑で時間を割かれていては、「トップリーダー」の役割を発揮して2025年の東京の医療の姿を示すことができたとは、とても言えないだろう。

東京都知事の名で「東京都地域医療構想」を出し終えても、都知事の仕事は終わらない。高齢化がすでに進んだ農村部と違って、東京都はこれから高齢化が進む。だから、前述のように、それに伴い入院患者を受け入れるベッドも今より増やさなければならない状況である。東京都知事は、病床の新増設の権限を持つといえども、人口が密集して病院を新増設する土地が少ない東京で、どのように病床を確保してゆくか、その手腕が問われる。その上、土地が必要なのは病院だけではない。目下深刻な待機児童を解消するために保育所を建てるにも、高齢者の増加に合わせて介護施設を建てるにも、土地が要る。

地域医療構想の含意を深く理解し、それを踏まえた利害調整などの手腕を発揮できなければ、誰であろうと、東京都知事として失格である。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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