数日で内定出し切る新卒採用選考のカラクリ 6月1日解禁なのに大手企業はもう選考終了

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新卒採用は、企業にとって大きな投資である。終身雇用とまでは行かないまでも長期雇用がほぼ前提となっている正社員採用では、1人数億円の生涯年収(の勤続年数割合)×人数分を投資していることになる。当然、6月1日以降初めて出会った学生の中から選考し数日で決着をつけるのは、いくら面接手法を高度化させたとしても難しい。ここでのミスマッチは極力避けなければならない。

6月1日に優秀学生を呼べるかがカギ

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ではどうするか。早くから学生に会って、(選考と明示しているかどうかは別として)自社にとって優秀と思われる学生を選別し、6月1日もしくはその数日以内に必ず受けに来てくれるように誘導する。そして、面接に訪れたら早急に内定・内々定を出す。この流れを作り上げられるかが、特に大手人気企業の採用部門には求められている。その構築に失敗し、動き出しが遅くなると、優秀な人材の獲得競争で他社に負けてしまう。きれいごとでなく、これが新卒採用のリアルなのだ。

ひと言断っておくと、6月初旬で本当に選考が終了できるのは、一部の大手人気企業だけだ。それらの企業はほとんどの学生が名前をよく知っているところだ。一方、知名度が低く、人気業種でもない場合は、たとえ大手企業であっても、採用選考は続いている。

また、短期化の影響で内定・内々定が例年以上に集中しやすく、学生から内定辞退される率が一層高まるだろうと言われている。そうした企業は内定者が充足するまで採用活動が続く。いつ選考が終了できるかの見通しについて、「未定」と回答する企業が、今回の緊急調査では約半数を占めている。大手人気企業に落ちてまだ内定・内々定を獲得できていない学生も焦る必要は全くない。次の企業に目を向けて頑張ってほしい。

それにしても、日本の新卒採用の選考のからくりは何と分かりにくいのだろうか。誤解のないように言っておくが、新卒採用そのものが悪いのではない。

職務経験のない若者を学生時代の早期に内定を出すのは、若年者の失業率を低く抑えることにつながるし、企業も計画的に人員を確保することができる。また、人材獲得で激しい競争をすること自体悪いわけでもない。優秀な人材獲得競争は世界規模でも盛んになっており、その理由は今後の企業の存亡に人材の質が大きく影響すると考えられているからだ。だから日本企業もきれいごとではなく、どんどん競争すればいい。

しかし、日本の新卒採用の選考のからくりが分かりにくいのは、建前が先行し、ルールが曖昧で、それを「守っている」と言っている大手企業の本当の動き方が良くわからないためだ。さらに年によって日程ややり方も大きく変わる。そのことが分からない学生は戸惑い、動き出しのタイミングが遅れると大きな機会を失ってしまう場合もある。また、大手企業が採用対象の大学を絞っているにも関わらず、全ての大学に門戸を開いているかのように見せているので、対象外の学生は内定がもらえる可能性がほとんどない企業の説明会に通い、エントリーシートを提出し落ち続けるという無意味な行為を強いられる。

内定を出したら絶対に取り消せない、取り消したら社名公表と高い罰金を科す、採用実績大学の詳細情報を公開するなどの最低限のルールを決め、それさえ守っていればあとは時期を含めて各社が決めるというのが分かりやすくて良い。もっと自由で明確な競争ルールが日本の新卒採用にも求められる。

寺澤 康介 ProFuture代表 HR総研所長

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てらざわ こうすけ / Kosuke Terazawa

1986年慶應義塾大学卒業。就職情報会社役員等を経て、2007年現会社設立。日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、経営者向けサイト「経営プロ」を運営。約25年間、採用・人事関連のコンサルティングを行う。2015年より中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授。週刊東洋経済、労政時報、企業と人材、NHK、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、アエラ、文春等に採用・人事関連の執筆、出演、取材記事掲載など多数

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