英国がEU離脱なら「世界恐慌」の引き金に? 勢い増す「離脱派」、日本企業にとっても脅威

拡大
縮小

離脱が現実になれば、金融市場ではリスク回避で、円を買う動きが強まりそうだ。

みずほ総合研究所の推計によれば「短期的にはドル・円で、1.7〜5.9円の円高圧力につながる」(吉田健一郎・上席主任エコノミスト)。

英国経済については、「長期的に致命的といえるほどの打撃にはならない」(経済産業研究所の中島氏)、との見方が少なくない。

英国のシンクタンク「オープン・ヨーロッパ」も「離脱のネガティブインパクトは小さく、長い目で見ても英国GDPの下押し幅は、0.5〜1.5%にとどまる」と指摘している。

EUへの打撃は深刻

むしろ気になるのがEUへの影響だ。「(外交や安全保障など)EUの政治的な面では、英国が象徴的存在。離脱すればEUへの打撃は深刻」(仏ル・モンド紙のフィリップ・メスメール記者)。

同志社大学大学院の浜矩子教授は、「EUにおいて、英国が均衡保持機能を担ってきた」と評価する。「統合欧州に一定のバランス感覚をもたらしてきた英国が離脱すると、EU全体が予定調和的な効率重視の運営へ傾いて、融通の利かない組織と化してしまう」(浜氏)。

島国である英国の人々には「大陸欧州の人々とは違う」という意識があるようだ。難民の大量流入やイスラム過激派によるテロ、ギリシャに端を発したユーロ危機などが、英国人としてのアイデンティティの高揚を促し、離脱論を助長した面は否定できない。

離脱が選択され、こうした内向き志向が周辺国にも影響すれば、世界的に保護主義が台頭しかねない。1930年前後の世界大恐慌の要因ともされる保護主義が広がると、世界の政治・経済体制は大きく揺らぐことになる。

「週刊東洋経済」6月18日号<13日発売>「ニュース最前線01」を転載)

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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