——教育、介護の他に注目している分野はありますか?
藤原:本当は、宗教がもっとしっかりしないとダメなんですよ。だって、これからは間違いなく宗教の時代になりますから。それなのに、日本の仏教は死んだ後のことばかりに力を入れてしまっている。
江戸時代くらいまでは、仏教が生活のあらゆる面で人々を支えていたわけじゃないですか。昔の宗教家、たとえば日蓮は土木工事まで指導していた。つまり、河に橋を架けるといった作業の現場監督もやっていたわけですよ。カトリックでは今も、そうした活動を行っている。
しかも江戸期にはお寺が、過去帳(亡くなった人の戒名、俗名、死亡年月日、享年などを記した帳簿)を一つのツールにして、戸籍を作っていたわけでしょ。そういうふうに生活全般に馴染みが深かったからこそ、明治以前には、寺子屋が全国に4万数千もあったと言われている。今のコンビニの数に匹敵するほどの寺子屋があったことが、日本人の識字率の高さを保証していた。
それなのに、仏教はどんどん後退していって、死んだ後のことしか扱わなくなってしまった。なぜなら、そのほうが儲かるから。今は、ちょっと人生に行き詰ったり、悩んだりしてもお寺に行かないでしょ。
宗教団体による悩み相談サービス
渡邉:キリスト教は行きますよね。
藤原:そう。でも面白いのは、日本ではキリスト教が全然広がらない。イエズス会のフランシスコ・ザビエルを始めとして、すごく優秀な人たちが布教に来ているのに、未だに人口の1%くらいしかキリスト教徒はいないでしょ。これはキリスト教会にとっては屈辱だと思うよ。
お隣の韓国は、すでにキリスト教化されていて、エリートの多くはキリスト教を信じている。さらに言えば、経済危機の後にIMF(国際通貨基金)による介入を受け入れてから、韓国は完全にアメリカの51番目の州という姿に近いと言う人もいますね。
だから日本は、ある意味、特殊。米軍基地をこれだけ受け入れながら、絶対アメリカ化しないというか。そこはすごいと思う。
そういう意味で、もっと宗教サービスが健全な産業として出てこないといけないんですよ。本当はまともな新興宗教が、「500円であなたの悩みを聞きます」というサービスを街角で提供しないといけない。その機能が弱いからこそ、日本では自殺が多いんだと思う。渡邉さんもそう思わない?
渡邉:そう思います。スピリチュアルが流行っているのも、きっとその辺と関係がありますよね。
藤原:ただ、スピリチュアルはエンタテインメントになってしまっているよね。そうではなくて、真剣に話を聞いて癒してくれるという機能が必要。「●●セラピー」というのでもいいんだけど。