目を輝かせて働く途上国の人たち
当時22歳の僕が赴任したのは、中東シリアの首都ダマスカスからバスで南に3時間ほど行ったところにある、ゴラン高原の小さな村だった。現地のNPOに所属し、貧困層向けに低金利で融資を行うマイクロファイナンスと呼ばれる事業の調査を行うのが、僕の任務だった。
正直なところ、その頃の僕は、中東という地域に対してあまりよいイメージを持っていなかったし、活動を始めたときは「かわいそうな途上国の人たち」に対して貢献をしたいという気持ちだった。
でもそれは大きな間違いだった。現場でともに働くシリア人の同僚たちの姿は、僕にとって衝撃的とも言えるほどカッコよかったのだ。ある同僚は村長の長男だったが、名誉職である村長にはならず、「村の発展のためにこそ、このNPO で全力で働きたい」と言ってがむしゃらに働いていた。
僕がイメージしていた「かわいそうな途上国の人たち」など、そこにはいなかった。むしろ、僕が見たのは「この村を、この国を、自分がよくしなければならない」という迫力を持ち、目をキラキラと輝かせて働く人たちの姿だった。
「ビジネスと社会課題解決のつながり」への気づき
協力隊の活動を始めて半年くらいが経った頃だ。熱意を持って働くシリア人たちの姿に感動しながらも、同時に、このNPOにはたくさんの経営上の課題があることも徐々にわかってきた。ただ、いったいどうすれば解決できるのかと悩んでいたところに、転機が訪れた。たまたま、ドイツの経営コンサルティング会社から2人の社員が、出向という形でこのNPOに派遣されてきたのだ。
「ビジネス」と「社会をよくする活動」とは完全に別物だと思っていた僕には、初めはなぜ彼らがNPOにやってきたかすらわからなかった。でも2人のコンサルタントは、ビジネスの手法を用いて次々とNPOの課題を解決していった。
1つひとつのプロジェクトにKPI(業績評価指標)を設定してプロジェクトの管理体制を強化したり、スタッフの業務量を可視化してバラツキを平準化するなどの組織変革を行うことにより、NPOの活動は目に見えてよくなっていった。そして村でのマイクロファイナンス事業も、しだいに成果が出るようになったのだ。ビジネスの力が社会をよくしていくという現場を目の当たりにし、僕は鳥肌が立つ思いだった。
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