新興ダウンウェア「YOSOOU(粧う)」急襲 ユニクロとThe North Faceのすき間を狙え!

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社長の想いが4Pを散漫にさせず、まとめあげている

「ターゲットをあえて絞らない」ということから、ユニクロのダウンジャケットを代表格として想起される方もあるだろう。確かに、カジュアルウェアという戦場においては、ユニクロが「ウルトラライトダウン」の販売目標を2011年の700万枚から 2012年は1300万枚と強気の動きを取っている。彼らの戦い方は、製造数が多くなることによって工場設備費などの固定比率を低減し、より低コストで勝負できるという、規模の経済を効かせた「コストリーダー」そのものだ。

安価で無難なスタイル。誰でも気軽に買う事ができる。しかし、誰も彼もが着ている商品では満足できない層も存在する。そこで明確にターゲットを絞り込み、デザインや機能で大手と差異化するブランドが出てくる。完全な防水で機能的差別化を実現している「The North Face」や「mont bell」などのアウトドアブランドや、高いデザイン性と品質を同時に実現し、10万円オーバーの商品を展開する「MONCLER」のようなプレミアブランドが、ぱっと思い浮かぶところだ。

これら例を引くまでもなく、ユニクロのようなコストリーダーを狙うのではない限りにおいては、ターゲット像はなるべく明確にしたほうが戦いやすい。しかし、YOSOOUは年齢や性別、趣味・嗜好や収入の枠を超えた未充足ニーズをつかみ、そこを埋めにいく戦略をとった。

ユニクロとMONCLERのすき間・ギリギリのライン

「ユニクロなどの汎用的な商品には満足ができない」、しかし、「スポーツブランドにありがちな“いかにもダウン”というような、主張した製品にも抵抗がある」、「スマートでオシャレなダウンを手ごろな価格で手に入れたい」。そうした「ホワイトスペース」にいる潜在層を(あえて、この言葉を使うなら)総まとめに捉えて「ターゲット」として製品を投入し、顧客を獲得した。

YOSOOUファンの潜在層の定義は、性別・年齢などのデモグラフィックなセグメント軸では説明できず、「製品・価格への未充足ニーズを持っている」という共通因子が決め手だった。そのことが「ターゲットをあえて絞らない」という表現につながっているのである。

しかしこれは前述の通り、存外に難しい。YOSOOUの場合、「ストレッチダウンの文化を広めたい」という永嶌社長の想いがまず存在し、そのことがブランドを総花的ではない印象的なものにまとめあげているように見受けられる。

商品は、「一家に一枚の家族で着回しのできるウェア」「モードに走るのではなく、あくまでスマートなカジュアルで誰にでも着られる」という永嶌社長の説明に代表されるように、コモディティ化しないギリギリのラインで、多くの人が頻度高く着られる(結果として広がりを持つ)ものとして仕上がっている。

百貨店でのイベント販売を中心とした展開にこだわるのも、固定費圧縮のためだけではない。「従来のカジュアル商品では、作り手の思いが消費者に伝わらなかった。なぜなら、カジュアル商品は“接客”をしないから。百貨店での販売はきちんと商品の説明ができ、さらに消費者の声、ニーズを収集する事もできる」(永嶌社長)と、ストレッチダウンの存在を伝えるコミュニケーションに力点を置いているのである。

つまり施策の一つひとつが、「ストレッチダウンの文化を広めたい」という永嶌社長の想いと、しなやかに連環しているのだ。「ホワイトスペースを狙う」というと、そこには割り切った計算に基づいた戦略が存在すると思われがちであるが、それを超えた感性によって具現していく戦略もまた真であることに気づかされる。

とは言え、まだ立ち上がったばかりのブランド。YOSOOUの挑戦は完成したわけではない。「2年目の今年、より多くの未充足ニーズを集められるように、さらなる新素材や縫製の技術を取り込んで多様な商品を展開している」と、永嶌社長。ただそれでも、既に大手に席巻されたかにみえた市場にホワイトスペースを見出し、静かに息づき始めたYOSOOUの展開から得られる示唆は大きい。

GLOBIS.JP=2012年11月3日掲載

金森 努 青山学院大学経済学部非常勤講師

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かなもり つとむ / Tsutomu Kanamori

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
 

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