儲かる漁業をつくれ! 元伊藤忠社員の挑戦 新世代リーダー 立花貴 漁師

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そのとき、立花の中で、何かが動き出していた。

「わかりました。給食のおかずをつくって、学校まで届けます」。立花は即答したという。総菜仕出しの店を切り盛りしていた母や妹に頼むと、手伝うことを快諾してくれた。仙台の実家は半壊状態だったが、翌日から、雄勝中学校や小学校の分も合わせて、100食分の給食供給が始まった。その後仙台青年会議所に引き継ぐことになるが、2週間続いた。

もう1人は、いまオーガッツの代表を勤めている漁師・伊藤浩光だ。家も、船も、漁具もすべて津波で流された伊藤は雄勝中学校のPTA会長でもあった。伊藤に「今までとは違う新しい、漁師たちの会社をつくりたい。相談に乗ってくれないか」と頼まれたのは震災から約3カ月のことだ。

雄勝の海は穏やか。ホタテやホヤなどピカ一の魚介類が獲れる

雄勝の漁業の未来のために、自分が今まで携わってきた食品流通の仕事の経験が生かせるのではないか、と考えた。いつも澤田に言われていた「グッと来る仕事」とはこれではないか。

立花によれば、グッと来るとは、「考えるよりも先に感じて、動き出している」という意味だという。心の声に耳を傾けて、素直に動く。心が喜ぶ仕事をしよう。立花の腹は固まった。かくして、昨年の8月、立花は伊藤などと7人で会社を立ち上げ、漁師となる。雄勝の、ガッツのある漁師が立ち上げた会社。それがオーガッツだ。

今までの仕組みを変えたい

言われてからはじめて気づくことだが、日本の漁業ほど流通経路が複雑な産業も少ないのかもしれない。農業と比べればわかる。

例えば、「山田さんがつくったジャガイモ」や「コメ」はあっても「山田さんが獲ったカキ」という話はほとんど聞かない。それもそのはず、漁師は通常、漁協に売ったらおしまい。だが、実際には漁師→漁協→仲買→中央市場などの全国市場へ。さらに仲卸→鮮魚店や飲食店、スーパーなどを経て、消費者に渡るのだ。

流通経路が複雑なためもあり、漁師の取り分は少ない。立花の説明によって、末端価格から「上流」である漁師の受取価格を考えてみよう。たとえば1品300円のカキがあったとすると、飲食店の仕入れ値(仲卸の売り値=卸値)は100円程度。漁師の取り分は卸値の20%前後が相場なので、カキ1品あたりでは20円前後にしかならない。仮に30円であっても、小売価格のわずか10%しか受け取れない計算だ。

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