儲かる漁業をつくれ! 元伊藤忠社員の挑戦 新世代リーダー 立花貴 漁師
「生産(養殖)から加工、販売までを自分たちの会社で担えば、流通を簡素化できるし漁師の収入も増えるはずだ」。伊藤や立花たちはそう考えた。実際には小分け運送や仲卸業者、市場などの力を借りているが、「そだての住人」制度は、「儲かる漁業」「生産者と消費者、生産者と販売者が結びつく漁業」というオーガッツの夢を実現する第一歩だ。
とはいえ、夢を実現するのは容易ではないことも確かだ。カキやほたての加工場はまだ準備できていないため、小さな加工場を間借りして作業をしている。規模を拡大するには大型冷凍庫などの設備投資がいるが、資金面での制約があることも事実だ。
収穫物の販路開拓や、信頼して選んでもらえ、結果として高く売ることにもつながるブランドづくりもこれからだ。今夏から秋にかけては、「下関のふぐにオーガッツの銀鮭が挑戦する!」といったイベントなどで、週末はほぼ毎週、日本の各地へ出掛ける日々が続いた。
昨年8月の会社設立から、1年以上が経過して、会社の形も変わってきた。当初の設立メンバーの中には、いったんオーガッツを去った者もいる。合同会社でスタートした会社の形式も、この9月には株式会社に。一方で、大手企業や企業トップが資金・人的な部分で援助を申し出るなど、支援の輪は広がりつつある。
雄勝の未来が日本の未来、世界の未来になる日
なぜ、ここまで立花は雄勝にこだわるのか。それは、すべてが流されてしまったこの町から、新しい持続可能な町、持続可能なコミュニティー、これからの町のモデルをつくり、世界に発信していきたいと考えているからだ。
日本が誇れる食文化と伝統文化の力で町を復興させる。教育に力を入れ、養殖体験などを通じて子供に学ぶ力をつける。自然の恵みに感謝し、生まれてきた時よりも美しい社会をめざす「新しい循環型社会」の実現を、立花は目指している。「ゆくゆくはオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)などもつくり、世界中から宿泊客を呼びたい」。立花の夢は壮大だ。
「まずは来てみて下さい。週2回出てますから」。これは立花が初対面の人に常に言うセリフだ。週2回、朝4時、渋谷駅出発。ワンボックスカーの運転手はなんと立花本人だ。片道450キロメートルの距離を6時間で走り、雄勝へ。百聞は一見にしかず。参加者は、雄勝でのボランティア体験などをしながら、古民家に1泊。この町の未来を語り合う。
立花が震災後現地に連れて行った人数はのべ約1000人になる。東京―渋谷の往復運転回数も約200回程度になった。
来春には、東京・銀座で直営レストランもオープンすることを検討している。もちろん、そこで使われるのは三陸・雄勝産の新鮮な魚介類を中心にした、国内の旬の魚を取り扱う店だ。食を通して雄勝ファンが増える。雄勝はブランドになる。立花の夢は少しずつ実現している。=敬称略=
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