入江社長は四六時中、海苔のことが頭から離れません。4人のお子さんを育てられましたが、いつも疑問を感じていることがありました。
「海苔はアレルギーの無い健康食品。鉄分はホウレン草の約4倍、カルシウムは牛乳の約1.5倍と言われている(文科省調べ)。なのに、どうして海苔の離乳食がないのかしら」
その原因は、海苔特有の強固な細胞壁にあります。赤ちゃんの咀嚼力では、細胞壁に邪魔されて、海苔の栄養成分が充分に摂取できないのです。事情はご老人でも同じです。それで、何とか海苔の持つ高機能を取り出せないかと、国や県、大学、大手企業などと連携して、プロジェクトを進めました。その中心的な存在の1人が小林孝常務でした。以前は、大企業で物質粉砕を専門とする研究者でしたが、その腕を見込んでヘッド・ハンティングしました。
医薬品や次世代トナーを作る機械を改良して、独自の粉砕技術を開発。マッハ2.5の気流で海苔の細胞をぶつからせ、0.02ミリの超微粉末を作ります。触ってみましたが、細かくてつるつるしています。厚い細胞膜を壊したことで、乳幼児から高齢者まで、海苔の栄養成分を十分に体内に取り込むことができるようになりました。
この海苔の超微粉末には、コレステロールの低下、便秘の改善、免疫の増強など様々な効能があります。最近注目されている抗酸化作用も、通常の板海苔の20倍以上と言われます。麺、スナック菓子、サプリメントに入れれば、人間が元々腸内に持っているビフィズス菌を活性化させ、整腸機能が十分に発揮されます。もちろん、粉末化の端緒となったベビーフードにも最適です。オンリーワンの海苔ビジネスの可能性が広がりました。
湿気る弱点を逆手に取った保湿性商品の開発
海苔は、出しておくと水気を吸ってぐんなりします。これも、スポンジのような細胞壁が水分を蓄えるため、湿気るのです。ではそこを粉砕して水溶性食物繊維(海苔だけに含まれる天然保湿成分「ポルフィラン」)を抽出すれば、強力な保湿性商品が出来上がるのではないか。逆転の発想で、のり石鹸、のりシャンプー、そしてのり化粧品が開発されました。これも、小林常務の超粉砕技術の賜物です。
小林常務は「以前の研究仲間は、私が海苔屋さんに就職してビックリしていましたね」と笑われます。定年前に転職されたそうなので、なぜ安定的な職場から転職したのでしょうか。その理由は「研究者たるもの、研究の成果がどうなったのか、この目で見たかったんです。基礎研究だけだと、それを次の担当者に渡せば終わりです。でも、結果としてどのくらい普及したのか、それを知りたいと思いました」。実に素直な研究者魂が伝わってきました。
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