新日本プロレスはなぜ一部上場を目指すのか V字回復を遂げた「企業」の新たな挑戦

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ファイトマネーにグッズの版権、そして芸能活動などの収入が合わさって選手の生活が安定していくのが、理想とも考えているようだ。

そのテコ入れ策として、新日本プロレスは今年1月に、大手芸能事務所アミューズとの業務提携を発表している。選手の芸能活動については、今後同社の協力を得て行われていく。木谷氏に、この業務提携について聞いてみたところ、次のような言葉が返ってきた。

「海外、特にアジア戦略は重要な事業です。アミューズさんは自社のアーティストじゃなくてもコンサート制作を行っています。今後、東南アジアでプロレスの合同興行をおこなう可能性もありますね。ただ業務提携のいちばんの目的は、ぶっちゃけて言えば選手のタレント活動を強化して、知名度を高めることです。それは選手の職業領域を広めることにもなります。ウチだって選手が世間に露出することで新しいお客さんが入ってくる。本人の収入も出演料を含めてアップする。いいことずくめじゃないかと思いますよ」

「初押しは買い」という教訓

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順風満帆に見える新日本の戦略。筆者も書籍を書いた後には、新日本のビジネス拡大を余裕をもって見つめていこうと思っていた。しかし、マット界は常在戦場。プロレスに静寂はなかった。年明けから続いた中邑など主力選手の一連の離脱劇によって、改めてレスラーの存在価値の大きさを知らされた。

木谷は、離脱劇の幕引きと新たな季節の幕開けについて、こう語ってくれた。

「SNSが発達している今は、ニュースが拡散されてから、あっという間に消費されていきます。中邑選手の出来事も、むしろどんどん話題になればいいなと思いました。するとしばらくしたら、『そういえばそんなこともあったね』なんて過去のことに思われることでしょう。そのためにも新たなニュースの発信を続けていかないといけない。ウチも好調を保ちながらも、ちょっとマンネリ感が叫ばれていたところもあったかな。これで新しい風を吹かせる自信がありますから、今年の後半は必ずプロレス・ブームにしてみせますよ」

木谷高明の最初の職業は、証券会社の社員だった。そのためプロレスのビジネスを株にたとえて話すことも多い。今回の離脱劇で思い出した株の教訓は「初押しは買い」という業界用語だったという。上昇トレンドの株の株価が初めてダウンした場合には、あえて買っておけという意味である。

会社の事業にずっと上昇気流はなく調整は必要だ。とすると、株価はまた上がるものなのだ。新日本プロレスは再び浮かび上がるのか。戦いの第2ラウンドはすでに始まっている。(=敬称略=)

長谷川 博一 フリーライター

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はせがわ ひろかず

1961年、北海道生まれ。音楽出版社勤務の後、1990年よりフリーランスの活動を開始。プロレス、音楽、社会問題などについて数多くの取材記事や著作を発表している。
プロレス関連の書籍に『三沢光晴外伝 完結編』(主婦の友社)、『全日本プロレス代表取締役社長 武藤敬司』(扶桑社)などがある。

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