少なくともトランプ旋風は、今まで政治に無関心だった有権者を数多く共和党に呼び込んだことは間違いないだろう。ただし彼らは、既成のワシントン政治に強烈な不満を持つ人たちである。その中心にいるのが、繁栄から取り残されている白人中高年層だ。
アメリカ経済は好調で、失業率は5%にまで改善したとは言うものの、「良い雇用」はほとんど増えず、所得の中央値も伸びていない。信じがたいことに、今のアメリカでは自殺者が増えている。2014年は4万2773人で、これは1999年比24%増であるとのこと(ちなみに日本はかつての「年間3万人」から減少中で、昨年の自殺者数は2万4025人)。
自殺者増加の中心にいるのが、低学歴・低所得の中年白人層である。彼らから見れば、オバマ大統領は理想を語るばかりで何もしてくれない。共和党主流派が言う「小さな政府と減税」でも、自分たちは救われない。その点、「反不法移民、反自由貿易」というトランプ候補の訴えは、まさに「わが意を得たり」なのであろう。
最大のリスクはアメリカ・ファースト
トランプ候補もこの2点だけはブレがない。さしあたって大統領に当選すれば、TPP批准は遠慮なく反故にしてくるだろう。数々の日本叩き発言(米軍駐留費を全額払え、核を保有しても構わないetc.)は、たぶんに「吹っかけ」かもしれないが、従来の日米関係を根本から見直す必要が出てくるのではないだろうか。
日本における親米・知米派の中には、従来から「共和党びいき」が少なくない。先月惜しくもガンでこの世を去ったジャーナリスト、伊奈久喜氏は「日本はアラスカ州と同じレッドステーツ(共和党州)」と呼んでいたものだ。しかるに現在起きているのは、共和党自体の変質である。以前は「強いアメリカ」を目指していた共和党が、今度は「アメリカ・ファースト」の孤立主義に向かうかもしれない。これこそ「トランプ大統領」による最大のリスクというべきであろう。
ところで今週、ホワイトハウスはオバマ大統領の広島訪問を発表した。従来の常識から言えば、現職大統領が選挙の年に、国論を二分しかねない広島訪問を決断することは考えにくかった。仮に共和党の大統領候補者が、2008年のジョン・マッケイン上院議員のような軍人出身者であれば、まったく違う話になっていたものと筆者は想像する。
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