ポルシェが「4気筒エンジンに回帰」した事情 これは世界的に避けられない流れだ

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ポルシェのような高級車メーカーなら、少しくらい燃費が悪くてもお客は買うはず、という声もあるだろう。しかし最近では、それを法律が許さなくなっている。アメリカの燃費規制は、CAFE(Corporate Average Fuel Efficiency)といって、企業ごとにある一定の燃費値を満たさなければ罰金を取るシステムを採っており、ポルシェも2008年からの4年間で800万ドル以上の罰金をアメリカ政府に納めている。

かつて4気筒エンジンを搭載していた「944」

基準値から離れるほどに罰金が増すというこのシステムは、年々厳しさを増している。フォルクスワーゲンの燃費不正も、この罰金を免れるため実際より良い公式データをはじき出すのが目的であった。

出力アップを我慢し、従来のエンジンを小さくして燃費を稼ぐという手もなくはない。だがターボによるパワー競争が過熱している現在の高性能車市場において、パワーダウンなど誰も許してはくれない。幸い、ポルシェには911という母体があるから、その3リッター6気筒エンジンの基本構造を使い、2気筒を切り落として3分の2にダウンサイジング、という方法によって、パワーの維持だけでなく、開発費も抑えることができた。

これからのトレンドは

プレミアムカーの分野においても、当面はこうしたモジュラーエンジン、小排気量、ターボ、高出力、低燃費というトレンドは続くだろう。しかし、古くからエンジンの進化を見つめてきた者にとって、現在の流れはエンジンの品質感を軽視しているようにも思える。

回転フィールが粗くても勇ましい音を発するエンジンが許容されるようになったのは、10年ほど前の筒内直噴の主流化以降だと筆者は考えている。それまでのトレンドは、回転抵抗を少なくしてキレイに回るエンジンを追究し、結果として燃費も出力も向上させる方向だったのだ。出力特性の点でも、現在はスロットル操作に対するレスポンスの鋭い高性能な自然吸気エンジンより、ターボによる低回転トルクの即応性のほうが一般には好まれているようである。

将来、こうした傾向に変化が表れるとすれば、自動運転車の普及が転機になると筆者はみている。自動運転車の普及は、路上における平均速度の低下を促すだろう。つまり高級車が集中する都会で、使う当てもないほどパワーのあるクルマを持っているメリットは消滅する。といって、自動車にお金をかけたいという人の数が減るわけではないから、そうなれば、現状のようなパワーと効率一辺倒のトレンドは一服し、スムーズかつ静かな、高品質の多気筒エンジンの人気も復活する可能性はある。

真田 淳冬 コラムニスト

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さなだ きよふゆ / Kiyohuyu Sanada

メーカーはじめ自動車業界に長らく籍を置き、1950年代から現代に至る世界中のさまざまな乗用車をドライブした経験を持つ。歴史、経済、技術といった分野をまたぐ広い知見を買った東洋経済オンライン編集部が独自に著者として招いた。

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