また、前出の「通行証」は、従来1週間から10日でスムーズに発行されていたのが、最近では2週間から1カ月かかることも珍しくないという。また、旅券に空白のページが少ないなど書類の不備を理由に申請が突き返されることも増えている。「技術的」に旅行者が減るよう調整を始めているという見方で、台湾の政府側もこうした手法が取られ始めたことを公式に認めている。
台湾では、中国に対して、これまでの国民党のように融和的な姿勢を取ってこない民進党の蔡英文政権が誕生する。そのために、中国はいろいろな手を使って蔡英文政権に対する「嫌がらせ」を展開しようとしているのだ。「(民進党が拒否している)『一つの中国』の原則を受け入れ、われわれと仲良くするなら、観光客をいままで通り送ってあげよう」という、いわば「踏み絵」を強いているわけだ。
しかし、民進党が応じないならば、いままで通りというわけにはいかないだろう。この現象からは、かつてのレアアースのように、中国政府が旅行者を「戦略物資」のひとつと見ていることがよく分かる。
もちろん、政策だけではなく、中国人自身の心理的な部分もある。いま日本と並んで人気のある韓国について言えば、韓流ドラマのヒットが少なからず影響しているし、韓国では昨年4月からビザの手続きを大幅に簡素化して韓国訪問に誘導しようと腐心している。ビザ免除の済州島などは、いま中国人観光客であふれているようだ。
また、タイもビザについては到着後に空港で取得できるように簡素化しており、格安の旅行費も喜ばれて、日本、韓国とならぶ中国人の新しい三大短期海外旅行スポットにまで上り詰めようとしている。
中国に「譲歩」するのは望ましくないが…
年間1億人という中国の外国旅行者だ。どの国も欲しいと思うのが当然である。しかもその購買意欲は、観光業だけでなく、小売業や化粧品や生活用品、家電などの産業全体にメリットをもたらしている。何よりも多くの観光客が来ている姿は、日本社会を活気づけ、日本人に自信を与える要素になる。
では、どうすればいいのだろうか。正直なところ、正解はない。観光客のメリットが欲しいから、領土や主権、外交において中国に譲歩をする、というのは決して望ましくはない。しかし、中国と対立さえしなければ、目の前にぶらさがった「インバウンド」という流れに乗れることも確かだ。そのあたりのさじ加減は大変難しく、さらに尖閣諸島での対立などに絡む偶発的事件が左右することもあり、そもそも観光業の立場からコントロールできる話ではない。
ただ、ホテルや観光施設など将来の事業計画をつくるとき、中国人観光客というドル箱の存在が決して永遠ではなく、日中関係や国際情勢の展開次第で、香港や台湾のように、ある日、突然、一気に姿を消してしまうこともあり得ると、正しく認識しておかなければならない。
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