ドイツが英国のEU残留を切望するワケ 政治・経済の両面で失うものが多すぎる

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仮に金融センターとしてのロンドンの重要性が低下しても、ロンドンの金融業務の一部はニューヨークや香港など、欧州以外の金融センターに移るだろう。それがEU内に移ったとしても、パリのようなフランクフルトのライバルにさらわれる可能性もある。そうなるとドイツにとっての打撃は変わらない。

英国のEU離脱がドイツ経済にマイナスの影響を与える第三の理由は、輸出業者が打撃を受けるからだ。2015年にドイツの対英貿易黒字は570億ドルを超え、輸出額は約890億ドル、国内総生産(GDP)の約3%に上った。ほかに対ドイツが貿易黒字となっている国は、フランスと米国だけだ。英独の2国間貿易に何らかの支障が生じれば、影響はドイツ産業全般に及ぶ。

実際には貿易や資本の流れがどう影響を受けるかは、EUと英国が交渉している離脱協定次第といえる。仮に英国がノルウェーやアイスランドのように欧州の域内市場の一部にとどまれば、経済的な打撃は限定的となろう。しかし残念ながら、そうなる公算は小さい。

政治面でも自由貿易推進に逆風

英国のEU離脱は経済だけでなく、当然ながら政治的影響も大きい。欧州統合にとって大きな後退となるからだ。残された加盟国が安全保障および外交上の政策に関して合意することは容易になるかもしれないが、自由貿易を推進するドイツとしては、逆風にさらされる。

現在EUには、自由貿易に好意的な見方を持つ陣営が、ドイツを除くと欧州理事会の32%の票を握る。可決のラインとなるのは35%であり、8%の票を持つドイツの判断が重視される。しかし英国が離脱すれば、ドイツを合わせても34%にとどまるため、ドイツの政治的影響力が低下することになるのだ。

ドイツにとっては自国の影響力を左右する事柄だけに、英国の判断に関心が集まっているのである。

週刊東洋経済5月14日号

クレメンス・フュースト 独IFO経済研究所所長

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クレメンス・フュースト / Clemens Fuest

1968年生まれ。ドイツの経済学者。オックスフォード大教授やミュンヘン大教授、欧州経済研究センター所長を歴任

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