「おカネの正体」は、意外に知られていない 貨幣を掘り下げると生物史と関係している
おカネは価値のシンボルだ
貨幣の歴史について語った本は数多い。
それだけに「新」といえるほどの新機軸を打ち出せるものかと思っていたのだが、本書は貨幣の定義を通常よりも拡張し『そこで私は、おカネは価値のシンボルだという定義にたどり着いた。』としてみせることで、より広い視点、それも生物学、宗教、脳科学と一見貨幣とはあまり関係なさそうな分野まで内包し、様々な角度から光を当てた貨幣史を語ることを可能にしてみせた。
貨幣史というよりは、貨幣を通した人類史──といったほうが正確かもしれない。貨幣を使いみちのみで考えると「価値のあるモノやサービスと交換する」ために存在している。が、おカネが手に入ると期待をした時に脳にはどんな影響が起こっているのか──と問いかけてみれば脳科学と繋がりうるし、宗教の教えにはおカネや富についての言及が頻繁にみられるがその観点からいえば宗教とも繋がっているといえる。貨幣にはさまざまなデザインがなされてきたが、そのデザイン自体も興味深いテーマになりえるし──と貨幣が影響を与える場所はいくらでも存在する。
全体を通して読んでいくとあまりにも話題が拡散していくために、とりとめがなくしっかりとした構造に欠けるようにも思うけれど、その分ハンムラビ法典からビットコイン、生物の共生関係からニューロサイエンスを用いた神経経済学といった新興分野までを貨幣という観点からジェットコースターで駆け抜けるかのようにして、一気に総括できるのが本書の魅力である。
その歴史がスタートするのは紀元前とかそういうレベルではなく、原初の「交換」、生物が行う「共生行為」にまでさかのぼってしまう。たとえばミツバチが花に蜜を集めにくることで花粉をあっちこっちへ運んで受粉してくれるのはエネルギーの「交換」にあたるように。進化経済学者のハイム・オフェクは『Second Nature』にて交換を行う生物は繁殖可能性が高く、「交換に関わる特性」を持つ生物が生存上有利だった可能性について述べているが、そうだと仮定すればそもそも貨幣を掘り下げていくと生物史そのものと密接に関係しているといえなくもない。
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