使える日本史教科書は高校生用だけじゃない 大学生向けの日本史教科書は一味違う
また、大学でまなぶための教科書として歴史学・日本史研究の最新の成果もわかりやすく盛り込まれている。議論が分かれるものについての価値判断は控えめで、学生たち自身がその先をまなぼうとする意欲を刺激するように書かれている。
各章ごとに末尾に参考文献が挙げられ、巻末にはおすすめの年表や歴史辞典、一般教養から専門的な研究に取り組むときに参考になる本も紹介されている。また、「歴史とは現在の視点に立って過去を分析し復元する作業だ」という考えから、近現代史には特に紙幅を割いている。
こうした本書の特徴は、じつは大人になってから改めて勉強したいと思う社会人にとってもありがたいものだ。いや、大人にこそ必要かもしれない。研究者たちは日々努力を重ねて知見を更新している。新しい知見が通説となるには、厳しい議論に耐えなくてはならない。その成果を知ることもなく、歴史への興味を暗記暗記の学生時代に置き去りにしてしまってはもったいないではないか。
暗記する日本史から考える日本史へ
さてさて、興味のある時代を選んで読んでみると、「ほほう、そうなのか!」と思うところが次々に出てくる。昔習ったこととは違うことも発見できるだろう。
天慶の乱(平将門の乱と藤原純友の乱)が都の貴族たちに強烈な衝撃を与え、そのトラウマ故に天慶の乱の鎮圧者の家系が特別視され、この後の武士の家柄は鎮圧者の子孫の家系に限定されていったことなどは初めて知った。
「中世百姓の地位と闘争」という章では、御成敗式目で百姓の逃散の権利が認められていた理由が「百姓」「住人」による「一味」とよばれる結合の、自立的・継続的な闘争によるものだったことを知り、これもそうだったのか!と。
近現代はとくに分量を割かれているのだが、そもそも私が高校生の頃(35年前!)には教科書に載っていなかった70年代以降の章は、30年40年という時間がどのような「歴史の評価」を下しつつあるのかを知ることが出来て面白い。
1977年のASEAN首脳会議で表明された「福田ドクトリン」や、その後の大平正芳内閣による「環太平洋連帯構想」「総合安全保障論」に触れたところでは日本の外交が多様な領域でその存在感を高めようとする姿勢をとったことを評価しつつ、日本が果たすべき役割についてはなお模索状態であったことも書かれている。
そして「戦後政治の総決算」をかかげた中曽根内閣から、湾岸戦争のトラウマを経て、現在の積極的平和主義に連なる流れが簡潔に記述されている。あのころと、今と。その距離と道のりを改めて考えてみたくなるのである。
ゴールデンウィークの読書に。歴史への水先案内にお勧めしたい。日本の歴史のスタンダードを知ることが出来る一冊である。
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