大前研一「高齢者のやけっぱち消費を狙え!」 理論ではなく「心理」が経済を動かす

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この、ななつ星の利用者は非常に象徴的で、こうしたセグメントというのはお金をたくさん持っていて、しかも使い方が思い切っているのです。

ですが、JR九州の前会長・石原進さんにお聞きしたところ、実は超富裕層ではない人が買っているそうです。やはり、「ななつ星」はやけっぱち消費をしようと思っている人が買うのです。

120万円払うのであれば、現地でハイヤーを雇って、同じくらい豪華なプログラムを自分で作って、好きなように旅をすることができます。ただ3日間列車に乗っているだけで120万円も使うのなら、もっと自分のやりたいことを自由にやってエンジョイしたほうがいいのではないでしょうか。私なら、そうします。もちろんそれほどまでに電車が好きなら別ですが。

企業は「やけっぱち消費」のお金を有効活用せよ

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私はシニア層に対して「バイクでも乗って、ジェットスキーでもやって、もっといろいろ自分なりの遊びを見つけろ」と言うのですが、皆「もう今さらなあ……」という感じです。全部パッケージで用意されて、ゴージャス、ラグジュアリーですと言われると、何となくいい気持ちになってしまうのでしょう。

けれど私は、ななつ星のようなものはまだ本物の消費者ニーズではないと思います。つまり、これは彼らが本当に求めているものではなくて、彼らが求めているのは、心から「本当にいい思い出になった」と感じるものなのではないでしょうか。

もうちょっとアクティブで、他の人が行かないような、自分なりのユニークな経験を皆求めている。それが、シニア消費というものの中心で、ここのところにバチッとヒットした商品やサービスを提供している会社はまだないと思います。そのあたりのユーザーやニーズに関するきちんとした統計もないので、そこに刺さるものを提供しているところがないのです。

これからの企業は、個人が持っているお金を有意義に使ってもらうためのライフスタイルの提案や、アイドルエコノミー(idle=使用されていない状態のものを活用するビジネス)の発想で余っているもの、空いているものの活用、資産活用など、もっといろいろな工夫や提案をすることが重要です。

例えば生命保険の会社であればリバースモーゲージ(住宅担保型の老後資金ローン)でもいいですし、金融機関ならアセット・バックト・セキュリティ(資産担保証券)のようなもので、2階建てのものを5階建てにして下3階を貸し出し、将来の賃貸料を抵当に取って、自分たちは4階と5階に住むといった提案ができるはずです。世界中の企業がそういうことをやっています。

もっと世界を見てください。そして頭を使ってください。日本は空き家が13.5%もある国です。これを100軒ほど買い取って補修し、海外からの旅行者に提供する、といったビジネスも可能です。その宿泊施設の管理・運営をやってくれる会社も、スマホを使えば簡単に見つけられます。そういうことをもっと積極的に考えてみてはいかがでしょう。
 

大前 研一 ビジネス・ブレークスルー大学学長

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おおまえ けんいち / Kenichi Omae

1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセッツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍する傍ら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長およびビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラムとして開講)。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。

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