民主党で候補者指名争いをするバーニー・サンダース上院議員は、人物としてはトランプ氏より好感を持てる。しかし彼の保護貿易主義のレトリックも、トランプ氏同様に危険である。彼は著名な左派の経済学者らとともに、TPP(環太平洋経済連携協定)を否定している。しかしTPPは、南米諸国などの製品に関して日本市場に開放を迫るなど、途上国の成長を大きく後押しする。
サンダース氏はさらにNAFTA(北米自由貿易協定)など過去に締結された貿易協定を支持したとして、ライバルのヒラリー・クリントン氏をも酷評している。しかし実際にはNAFTAにより、メキシコで米国製品にかかる関税は大きく押し下げられるなど恩恵もあった。
惨事の前触れ
危惧されるのは、サンダース氏やトランプ氏らのような保護貿易主義への支持が広がることで、クリントン氏らが中道的なスタンスから逸脱してしまうことだ。同様の動きは今後、上下両院の多くの議員に広がる可能性がある。これは惨事の前触れといえよう。
確かにTPPには、知的財産権保護の検討が不十分であるなど課題も多い。だからといってTPPが不要ということにはならない。「安価な輸入物の流入で米国の仕事が激減する」といった主張もあるが、一方的な見方である。自由貿易で重要なのは、中国のような新興国にハイテク製品を売りやすくする仕組みであり、そうした製品が模造される土壌を排除することである。
繰り返すが、米国における格差是正のための正しい選択は自由貿易に背を向けることではない。むしろ自由貿易と正面から向き合うことだ。一方で格差是正については、税制をよりシンプルで累進的な制度に改善するなど別の対策が求められる。先進技術の導入や競争力を養うための教育改革も必要だろう。
「格差是正」という、あたかも道徳主義者のようなマントを身にまとったポピュリストたちは、私の目には偽善者のように映る。今回の大統領選は貿易政策に関し、社会全般に知見が欠如していることを露呈している。
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