接続の課題と同じぐらい気になるのは、青森駅や新青森駅の、駅一帯の「使い勝手」や情報提供のありようだ。旅行者にとっては、接続時間の長さもさることながら、浮いた時間をどう活用できるかが大きな関心事になる。一刻を争う乗客ばかりとは限らない。
「1列車遅らせてでも、せっかくだから駅の構内や周囲を見物したい」と思い立ったり、「トンネルが続く新幹線に乗る前に、メールチェックやネット作業をしておきたい」と考えたりする人もいるだろう。
地元から「乗り継ぎ時間が30分あるなら、このような時間の過ごし方がある」「待合室や物販コーナーを有効に活用してほしい」という提案や気配りがあってもよい。何より、在来線以外の交通機関を利用した場合の所要時間や料金に関する積極的な情報提供が欠かせない。
しかし、例えば新青森駅の改札内の待合室にはコンセントがなく、青森駅も新青森駅も、改札外にはパソコンを使えるデスク自体がない。北陸新幹線の新高岡駅や飯山駅、東北新幹線の七戸十和田駅など、必ずしもメジャーではない駅に、パソコンやスマートフォンを充電したり、Wi-Fiを利用できる環境が整っていたりする姿と比較すると、青森市内の駅には、利用者のフラストレーションを察知して対応する「文化」が必ずしも根付いていないように感じる。しかも、その状況自体に気付いている人も非常に少ない。
青森市に限らず、特に新幹線駅が郊外に立地した地域は、旅行者の視点に立ったさまざまな対応が進んでいない例がある。自らの不便を嘆きながらも、自分たちは自家用車で直接、駅に乗りつけたり、送迎してもらったりする機会が多いせいだろうか。
新幹線の価値損ねる「不作為の連鎖」
北海道新幹線の開業を契機に、多くのメディアや出版物が道南と青森を組み合わせた特集を組み、青函圏で商談会も開かれるなど、津軽海峡を挟んだ地元の関心そのものは高まっている。にもかかわらず、「新幹線は高くて不便だからフェリーを使おう」といった反応もネットでは散見される。
JRグループは今年7~9月、大型誘客企画「デスティネーションキャンペーン」(DC)を青函地域で展開する。北海道新幹線の利用実績を上げて、初年度52億円と見込まれる赤字を少しでも減らし、さらにはJR北海道や北海道全体への波及効果を期待するなら、地元とのきめ細かな連携が欠かせない。
にもかかわらず、核となる青森-函館間の往来が不便かつ高価になってしまった現状は、地元の対応に水を差しかねない。一方で、旅行者に対する地元の目配りも万全とは言い難い。さまざまな当事者の「不作為の連鎖」が、並行在来線の経営分離など多くの代償と引き替えに実現した北海道新幹線の存在価値を損なっていないか。
目前に迫った大型連休への対応は手遅れとしても、せめてDCに間に合わせて、外来の観光客や地元の住民が納得できる、何らかの対策が要るのではないか。近い将来のダイヤ改善や駅の利便性向上に向けて、青函圏におけるJRや自治体、経済界、市民など、多くの関係者の対話と検証が急務と感じられる。
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