脱デフレ政策の徹底で財政収支は改善する 「時期尚早な増税」の判断ミスを繰り返すな

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国の財政状況を家計に例えて「借金依存に陥っている」などの解説には、この一般会計ベースの歳出と歳入の数字が使われている(貨幣を創出する権限を持つ政府部門の財政状況を家計部門に例えることは経済的には妥当ではないが、この点について今回は議論しない)。

やや専門的になるが、一般会計では地方政府への移転分である地方交付税交付金や国債償還が国債費として「歳出」に計上されていることなどから、これで一国全体の財政バランスをみるのは必ずしも適当ではない。地方政府などを含めた幅広い範囲で、税収と歳出のバランスをみるのがより適切である

国と地方政府を合わせてみると、2014年度で税収は約94兆円で(国税である所得税や法人税に加えて、住民税や固定資産税や地方消費税などの税収が加わるので一般会計よりも税収規模は大きい)、一方歳出は122兆円前後で2009年度からほぼ横ばいで推移し、税収は80%前後に達した。筆者の試算では、2015年度の税収は約100兆円まで増えており、歳出に対する比率は80%以上に高まっていると試算される。「税収が歳出の半分しかない」とメディアで強調されるほど、日本の財政バランスは悪くないことは、こうした客観的な数字をみるとご理解いただけるのではないか。

プライマリーバランスは改善している

財政赤字の規模が他国よりも大きいなどの偏った言説が、依然としてメディアでは目立つが、実際には、国・地方のプライマリーバランス(基礎的財政収支)は、2012年度の約30兆円から、2015年度には約16兆円(GDP比率3.3%)までほぼ半減している(筆者試算、最新の内閣府による中期財政計画でも同様の数字が示されている)。

財政赤字の縮小幅は、同期間の税収増(約17兆円筆者試算)とほぼ同規模である。このうち消費増税分は7~8兆円を占めるが、それ以外の税収増加は金融緩和によるデフレ圧力の和らぎで増えた。2014年度以降、消費増税のショックでGDP成長率がマイナスに落ち込む中で税収増が続いたのは、金融緩和強化で企業利益の増加基調が保たれたためである。

重要な点は、2%インフレ実現には程遠い中で、プライマリーバランスがGDP比率で3%前後まで改善していることだ。今後、金融緩和徹底が続き、インフレ率が安定的に2%で高まる状況になる過程で、すでに100兆円規模まで増えた税収は、今後3~4兆円/年増えると予想される。総需要刺激政策をあと3年前後徹底することで税収が底上げされ、プライマリーバランスも均衡に向かい縮小するだろう。尚早な消費増税によって、景気後退に陥るリスクをとるよりも、脱デフレを後押しする政策を徹底することが財政健全化をより確実に実現する処方箋になると考える。

もちろん、歳出が膨らめば財政改善のピッチは遅くなるが、アベノミクスが発動されてから2013年度以降、実は政府歳出はほとんど横ばいで推移している。裁量的な公共投資は増えたが、8%への消費増税の見返りには追加的な社会保障費は数千億円程度しか増えなかった。実際には、金融緩和の効果で失業手当の減少などで社会保障費拡大が抑制されたことで、歳出拡大に歯止めがかかったのである。現在想定されている、補正予算の拡大などを通じた消費刺激策による歳出拡大のインパクトは、消費増税見送りによる自然増収でカバーできる規模とみられる。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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