日経新聞の課題、高まる現場の"経営不信" 連結経営強化で起こったハレーション

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こうした不満のガス抜きの意味もあるのだろうか。3月末の人事では、日経BP取締役の酒井綱一郎氏が日経本体の執行役員グループ経営室長に“天上がり”した。日経本社にグループ会社出身の執行役員が誕生するのは初めてだ。酒井氏は毎日新聞を経ての中途入社だが、実質的にBP生え抜きと目されている。前出幹部は「日経本社で実績を積んで3年後にBPに戻り、いずれBP社長になるのではないか。そうすれば現場のモラールも上がるかもしれない」と期待する。

交流人事という形で、酒井氏の穴を埋めたのが、日経新聞の東京編集局次長から日経BP取締役編集担当補佐に就任した近藤勝義氏。新設された『日経ビジネス』総編集長のポストに就いている。

子会社の自立を尊重する遠心力経営から、求心力経営へ転換すれば、慣性の法則が働き多少の摩擦が起こるのは当然かもしれない。が、グループの活力を維持するためには、統制しつつも、それぞれの自律的な経営を認める落としどころを探れるかどうかが、課題だろう。

経費節減徹底で労働強化

3月の人事異動リストを見て、産業部のある中堅記者は目をむいた。1995年以来、ジャスダック、マザーズなどに上場する中堅ベンチャー企業を担当してきたベンチャー市場部(旧称:中堅・ベンチャー企業部)が解体され、証券部などに記者たちは散っていった。当然、これにより産業部の業種別グループで担当する企業数は増える。ところが、記者の頭数は増えなかった。「社数が増加すれば、負担がそれだけ重くなる。人数を増やさなければ、取材が手薄になってしまう。デジタル部門への人材シフトを進めていく中で、新聞社の人員配置が手薄になっているのではないか」(中堅記者)。

07年12月期は、広告収入の落ち込みにより新聞関連事業の利益が前期比でほぼ半減。日経本社にとって逆風の年だった。そこで聖域なきコスト削減を実施。記者に対しては、身内の日経テレコンであっても日経以外のコンテンツを閲覧できる端末数を制限。出張に当たっては、出張後精算ではなく事前に予算申請を行う、部署によってはコピーに裏紙を使う、といった個別具体的なコスト削減が課せられている。

本社から深夜帰宅する際のハイヤーも、今は3人同乗となった。同じ方向へ帰る社員がそろうまで待っていなければならない。「仕事をギリギリまでした後で、へとへとになって帰るときに3人というのは『日経はここまで来たのか』というショックがありました」(社内報「大陽樹」の座談会での女性記者の発言)。これを受けて杉田社長(当時)は、自分の現役時代、取材にハイヤーを使えずタクシーを使って恥ずかしい思いをした。そういう恥ずかしい思いをさせないための節約だからガマンしろ、という旨の回答をしている。だが、ハイヤーもタクシーも、車には変わりなく取材に支障はない。深夜に3人ずつ帰宅、のほうがよほど大変なような気もするのだが……。

また、生え抜き中心、入社年次による秩序を何よりも重視してきた職場にあって、ここのところ記者の中途採用を強化したことも現場ではトラブルのもとになっている。

「夜討ち、朝駆けはご近所に迷惑になると思うんです。しかも、何の意味があるのでしょうか」

新聞社の“常識”を打ち破る、自信たっぷりの若手記者の発言に、ベテラン記者はゲンナリ。「もちろん中途で優秀な記者も入ってはきているが、なぜかちょっとおかしい記者が多い。いったい上はどういう基準で採用しているのか」と憤る。

他紙と比べて日経は女性の購読者が少ない。そのため、女性読者を開拓するために急ピッチで進めているのが、女性記者の積極登用だ。「実力の高い記者が登用されていることには、まったく異存がない。しかし、一部経営幹部は情実人事のような登用も行っており、それをほとんどの社員は知っている。現場からの反発は強い」(中堅記者)。

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