カシオ、波瀾万丈「デジカメ20年戦争」の全貌 つねに不振と復活の繰り返しだった

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2011年に発売した「EXILIM EX-TR100」は、そんな中で生まれた製品だ。カメラと液晶モニター、フレームがそれぞれ独立して回転することで、自由な角度から写真を撮ることができるものだった。

自由な角度で撮れる「EXILIM EX-TR100」。思わぬブームが製品の危機を救った

「アメリカで大ヒットさせる予定だった。ストリートの若者が自由に撮影し、インターネットで共有するという使い道を考えていた」(中山執行役員)。だが、新たな需要を開拓できず、販売は不発に終わった。

ところが、部品を廃棄し、生産を停止しようと「敗戦処理」を進めていたとき、思わぬチャンスがめぐってきた。”自撮り”ニーズだ。2011年の夏に香港の芸能人がブログで紹介したことをきっかけに、中国で注文が殺到し始めたのだ。

その後は作れば作るほど売れた。だが、一時のブームで終わってしまう可能性もあった。そこで生きたのが、「Gショックブーム」の反省だ。1990年代後半、日米で急速に盛り上がったGショックブームは、大量生産によって供給過剰に陥り、製品の「特別感」を失ったことで終息してしまった。

独自製品こそ、カシオの開発の「命」

その反省を生かし、TR100はすぐに大量増産を行わず、需要と供給を崩さないように意識したという。さらに、後継機では自撮りに特化し、顔をきれいに画像加工する機能を磨いた。結果、発売から5年が経つ現在でも、中国では「自拍神器(自撮り神器)」として圧倒的な人気を誇る。

「自拍神器」と称されるカシオのデジカメ。自撮りブームが大きく牽引することになった

自撮りカメラの成功に伴い、業績は急激に回復。コンパクトデジカメ専業として稀有な利益率を実現するに至った。

それ以降も、カシオは独自の製品開発を貫いている。2014年には円形のカメラ部分と液晶モニター部分が完全に分離し、モニターから遠隔で写真を撮影できる「FR-10」を発売。2015年には上位機種の「FR-100」も投入した。

文字どおりに紆余曲折、波瀾万丈の連続だったデジカメ事業。カシオは不調に陥る度に、他社にはない新しいコンセプトを提案することで復活を遂げてきた。

市場縮小と競争激化の影がつきまとうデジカメ業界で、現在の好調を持続できるかどうかも、自撮りカメラに次ぐ軸を確立できるかにかかっている。厳しい競争の中で斬新な製品を生み出し続けることこそが、カシオに与えられた宿命なのだ。

渡辺 拓未 東洋経済 記者

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わたなべ たくみ / Takumi Watanabe

1991年生まれ、2010年京都大学経済学部入学。2014年に東洋経済新報社へ入社。2016年4月から証券部で投資雑誌『四季報プロ500』の編集に。精密機械・電子部品担当を経て、現在はゲーム業界を担当。

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