ベルルスコーニ氏はイタリアの主要民放チャンネルと日刊紙数紙を所有し、メディアと世論の操作によって影響力を保持した。イタリア国民は政治への信頼が低いことで知られるが、ベルルスコーニ氏はその国民感覚をさらにマヒさせた。
2008年の世界経済危機以降も、同氏はイタリア経済が順風満帆だという明らかに現実とは違うことを国民に信じ込ませた。本来なら政府が率先して重要な改革に手をつけるべき時期に、同国では無為な時間が流れてしまった。
それでもベルルスコーニ氏が国民に支持された理由には冗談や虚構、笑顔といった要素が挙げられる。加えて同氏は名誉毀損訴訟などの脅しにも頼った。自らの主張に批判的な人々を黙らせる手段として、彼ほど名誉毀損訴訟を用いた人物を私は知らない。反マフィアで知られる作家のロベルト・サヴィアーノ氏は、ベルルスコーニ氏が自身の邪魔になる者は誰であろうがその名を汚そうとした様子を指し、「泥マシーン」と形容した。
同様の戦術はトランプ氏もお手の物だ。彼は何度も名誉毀損で批判者を訴えてきた。大統領に就任した際はメディアによる批判を統制するとも発言している。一方で満面の笑みと冗談を交え楽観的なメッセージも発する。今の米国のように国民の多くが不満を抱えている場合、こうしたアプローチは効果的だ。
専門家の一部は両者の相違点も指摘している。たとえばビジネス感覚はベルルスコーニ氏のほうが優れ、トランプ氏より人物的にも魅力がある、などの見方だ。
ただしベルルスコーニ氏は側近や近しい友人を通じてマフィアと関係があることが知られており、ビジネス感覚については疑問も多い。同氏の魅力を支持者が感じるという点もトランプ氏と同様である。
米国はイタリアの過ちを避けよ
2人の相違点の指摘は、米国にとってさほど重要ではない。深刻なのはトランプ氏もベルルスコーニ氏も、自らの利益のためには容赦せず、手段を選ばない点だ。
多くのイタリア人はベルルスコーニ氏がいずれいなくなると考え、うそや失敗について見て見ぬふりをしてきた。が、彼はなかなか消えず、十分な害をイタリアに及ぼした。
米国も同様の過ちを繰り返してはならない。トランプ氏はわれわれが思うよりもっと狡猾で、しぶとい人物であるはずだ。ベルルスコーニ氏と同等かそれ以上の惨事を防ぐための唯一の方法は、トランプ氏が繰り出す侮辱的な言動や脅しに対し、国民が批判し続け、そのうそを暴き続け、発言や行動の責任を追及し続けることである。
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