経済危機は9つの顔を持つ 竹森俊平著 ~経済の「謎」に言葉で迫る

経済危機は9つの顔を持つ 竹森俊平著 ~経済の「謎」に言葉で迫る

評者 高橋伸彰 立命館大学教授

 リーマンショックから1年余りが経過し、世界経済は各国の未曾有の景気対策によって、落ち着きを取り戻しているように見える。これに対し、本書の編著者・竹森氏は、100年に一度の危機と日本の「失われた10年」を重ねながら、今の世界経済はバブル崩壊後の対策で一時回復した「一九九四年頃の日本の状態に近い」と警告する。

不良債権の抜本的な処理を積み残したまま緊急避難的な対策をいくら講じても、自律的な回復に至らず景気が失速した経験が日本にはある。竹森氏と9人の対談を通底するテーマもここにある。日本の「失われた10年」の失敗を、大々的な対策の効果が途切れた後の世界経済が繰り返さないように、対談を通し教訓の形で整理しようというのだ。

竹森氏は本書の目的を一種の「オーラル・ヒストリー」だという。だが、それは単に構成が対談形式だからではない。今回の危機で復活したと言われるケインズの経済学を改めて竹森氏がたどり、現実の経済に影響を及ぼす言葉の重要性を発見したからだ。

実際、信用力の低いアメリカの家計が危険な変動金利のローンにはまったのは、「住宅価格が上昇する」という言葉にそそのかされたせいだと竹森氏は指摘する。ケインズが見たように、経済について語られる数多くの「言葉」には、客観的な裏付けがあるなしにかかわらず、不確実な経済の顛末を解く鍵が潜んでいる。

竹森氏が対談した9人の相手も、それぞれの言葉で「失われた10年」の教訓と、今後の世界経済の行方を語っている。

たとえば、建築家の隈氏は日本という国土の条件を考えずにアメリカの基準で住宅や道路などの社会インフラを整備しようとした結果が「今の日本の失策につながった」と述べる。また、投資銀行家の神谷氏は、お金は金融機関を通してまともなところに回るとみんなは考えているようだが、今回の危機前には世界のマネーの4割が「投機家やギャンブラーの手に」渡っていたという。

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