そこはまさに生き地獄、兵士は何を見たのか 最新の殺人兵器で破壊される男たち
2007年、カンザスのフォート・ライリーを拠点にしていた第16連隊第2大隊は、念願のイラク派兵に臨むことになった。指揮官のカウズラリッチ中佐は40歳の勇猛な男で、特殊部隊の兵士としてアフガニスタンでの従軍経験もある。しかしイラク進攻作戦では、彼の大隊は留守番組であった。
「兵士の中の兵士」
士官学校を卒業した多くの士官がペンタゴンで働くことを夢みる。だがカウズラリッチはそれを望まない。軍内部の政治を敬遠し前線で戦うことを常に求める。「兵士の中の兵士」「彼について行けば地獄の底からでも戻ってこられる(後略)」と部下に呼ばれるような気質の男だという。
また彼は陸軍に入隊してから今まで、一人の部下も死なせたことがないという経歴の持主でもあった。本書『兵士は戦場で何を見たのか』はピュリツァー賞経歴を持つジャーナリスト、デイヴィッド・フィンケルが派兵される第2大隊に同行し、兵士たちがどのように崩壊していくかを丹念に取材した従軍記である。
カウズラリッチを待っていたのは、伝統的な戦争ではなく、政治的手腕が試される「対反乱作戦」であった。約束は一切果たさないが、貪欲にアメリカ軍から金品を貪ろうとする、地元の指導者とのあくなき交渉だ。正規軍同士の戦争ならばカウズラリッチはその並はずれた勇敢さとリーダーシップを武器に、大隊の先頭に立ち「俺についてこい」と部下たちに言えたであろう、と大隊の副司令のカミングズは考える。だが部下の予想に反し、彼は政治活動を進んで行う。アラビア語を学び、ラジオ番組に出演し、政治家との交渉に赴き、イラクの治安部隊の指揮官と関係を築いていく。
カウズラリッチはアメリカの勝利を疑わなかったが、現実は違った。彼の部下たちはIED(簡易爆弾)やEFP(自己鍛造弾)やロケット弾で連日のように攻撃されるようになる。本書で特にその破壊力が強調されているのがEFPだ。WikipediaによるとEFPとは成形炸薬弾の一種で爆発レンズによる平面爆轟波とマイゼン・シュレーディング効果による爆轟波の集中による圧力で、爆破形成侵徹体を形成する兵器とある。本書ではこの侵徹体がいかに兵士たちの肉体を生きたまま引き裂き、彼らを肉塊に変えていくかが克明に描かれている。
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