そこはまさに生き地獄、兵士は何を見たのか

最新の殺人兵器で破壊される男たち

EFPの被害者の一人がジョシュア・リーヴズだ。彼はその日、妊娠していた妻が無事に赤ん坊を生んだと聞かされた。喜びもつかの間、EFPの犠牲になる。EFPが彼の座る席の真横からハンヴィー(機高動多用途装輪車両)に飛び込み彼を引き裂いた。

救護所に運ばれた時点ですでに脈はなく、顔は土色で脚はズタズタの状態だった。衛生兵が心臓マッサージを行うごとに、脚の肉片が床に崩れ落ちていく。足の指が見守る仲間たちの前に転がる。カウズラリッチもカミングズも涙をこらえるのに必死だった。医師たちの懸命の努力で再び心臓が動き出した。急いで後方の基地に搬送されたが、手術中に死亡した。

19歳の兵士ダンカン・クロックストンはEFPの爆破で四肢の全てを失い、全身に火傷を負う。大男だった彼は子供の用に小さくなった。その姿に妻が、母が、戦友が衝撃を受ける。あまりにも非現実的な光景だったという。彼は本国に送還され懸命に生きようとしたが、感染症が全身を蝕み、最後は妻と母の決断により、治療が停止される。そして息絶えた。

兵士たちの恐怖と怒り

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他にも多くの兵士が手をもがれ、脚をミンチにされ、顎を吹き飛ばされる。軽傷の者はハンヴィーから転げるように逃げ出し、意識をなくした者や重症で動けない者は、燃え盛る炎の中で炭になるまで焼かれる。その描写に多くの読者は涙を禁じ得ないだろう。兵士たちの恐怖と怒りが文章を通して、ひしひしと伝わってくる。その臨場感と感情の動きは、長い時間を彼らと共に過ごした著者だからこそ、見事に表現することができたのであろう。

ジャーナリストとして、著者はアメリカ兵が見ようとしなかった者たちにも着目する。イラク人たちだ。イジーと呼ばれる男はカウズラリッチ専属の通訳だ。彼はかつてイラク政府から派遣され国連で働いていた経歴を持つ。しかし、その立場を独裁政権から疑われ逮捕された。釈放後に家族を残し国外に逃亡していたが、アメリカがイラクを解放したと喜び帰国する。しかし待っていたのは混沌としたイラクであった。いつかアメリカに難民として渡れる日を夢みて彼は懸命に働く。そんな彼に兵士たちは石を投げつけ罵倒する。

レイチェルという25歳の女性通訳は、アメリカの自由を信じてアメリカ軍に協力する。上記のリーヴスをハンヴィーから助け出したのも彼女だ。リーヴスの血が脚を伝わりブーツの中に流れ込んだと彼女は語る。年齢が近いという事もあり、兵士たちは友人のように彼女に接していた。しかし、死傷者が増えるにつれ、兵士たちの苛立ちはイラク人全般に向けられる。彼女はある日、別の大隊の兵士たちに口汚く罵られる。イラク人たちの目を通して兵士たちの心が壊れていく姿が語られている。

実は本書は以前、HONZの学生メンバーの峰尾健一がレビューした『帰還兵はなぜ自殺するのか』の前編にあたる作品だ。本書の特徴は「イマージョン・ジャーナリズム」と言われる手法だ。これは取材者の存在をその文体から消し去る事により、小説でも読むような感覚で取材対象者や事件を見る事ができるという点が特徴だ。

最初はノンフィクション作品として、やや違和感を覚えるが、圧倒的な臨場感と共に人物の心の動きをとらえる必要のある作品には、むいている手法ではないだろうか。欧米などでは時折り見られる手法でもある。私が以前レビューした『いまでも美しく』という作品においても、この手法が使われていた。

ついにカウズラリッチほどの男でも、悪夢に苛まれ眠れないようになる。大隊最高の兵士と讃えられたアダム・シューマンはPTSDと診断され除隊する。肉体のみではなく兵士たちの精神が破壊されていく様も克明に記される。戦争は国を、地域を、社会を、人間関係を、肉体を、そして人の心を破壊する。戦争の中で男たちが破壊されていく姿を、これほどまで見事に描いた作品を私は知らない。

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