あの人がうつ病から抜け出せない最大の理由 「復帰に対する焦り」とどう付き合うか

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うつ病の治療において焦りが禁物なのは間違いない。だからといって単純に焦りを禁止するのも正しくない。「焦ってはいけない」と言われると人は余計に焦るものだ。結果、症状が軽減せずうつ病が長期化するケースは少なくない。

うつ病の治療において、この「焦りの偽解決」は要注意だ。本人も周囲もあえて焦りを許すことで、自然と無用な焦りは消えていく。まるで「とんち」のように聞こえるかもしれない。しかし、これが人間の心の動きなのだ。

「うつ病」との付き合い方を考える

では、なぜ患者も家族も回復に対して過剰に焦るのか?筆者は、「うつ病」という定義がそれに影響していると分析している。「病気=異常な状態」という認識が、回復に対する渇望感を助長する。

自分がうつ病だと知った患者は、決まってこれら2つの質問をすることが多い。まず「本当に治るのかどうか」という質問。もう一つが「いつ治るのか」という質問である。病気という言葉は必然的に、正常な状態に戻る可能性を期待させる。その結果、「完治」に対して焦りの気持ちが生まれてしまうのだ。

しかし、うつ病の治療では完治ではなく、「寛解」という概念を使う。寛解とは、病状が落ち着き、日常生活に問題がない状態にまで回復したことを指す。がんの治療でよく使われる言葉だ。つまりうつ病の治療は、「病気の消失」がゴールではないのだ。

驚くべきことに、うつ病治療では「完治を目指してはいけない」。支障なく日常生活を送ることができる寛解を目指すのが正しい治療である。「正常な状態に戻ろう」という過剰な焦りは何の利益もないことになる。

喘息やアトピー性皮膚炎など、アレルギーの治療をイメージすると分かりやすい。筆者は、もともとひどいアトピーだった。アトピーを治そうと必死だった両親の下を離れて一人暮らしを始めて数日で、治療に対するストレスや焦りが軽減し、アレルギー症状が治まった経験がある。うつ病の治療においても、正常な状態に戻るよりも、日常生活でうまく付き合う方法を考えるべきである。

「病気なのに治さない」という考えは、多少抵抗があるかもしれない。ただ、うつ病は「心のありよう」が症状に影響する病気である。うつ病をどう認識するか?によって回復の過程も変わる。完治を目指して治そうと焦るのを止め、寛解を目指して付き合い方を考える。無用なストレスや焦りが軽減し、症状が改善する可能性は十分にある。復帰に対して焦りを感じるなら、治ることから目を離してみてはどうだろうか?

片田 智也 心理カウンセラー/LOGOSCOPE 代表

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かただ ともや / Tomoya Katada

大学卒業後、20代で独立するがストレスから若年性緑内障を発症、視覚障害者となる。同年、うつ病と診断された姉が自死。姉の死の真相を知るため、精神医療の実態と精神療法を探求、カウンセラーへと転身する。教育や行政や官公庁を中心にメンタルヘルス実務に参画し、カウンセリング実績はのべ1万名を超える。心理カウンセリングから、経営者、アスリートのメンタルトレーニングまで、メンタルの問題解決に広く取り組んでいる。著書に『メンタル弱い」が一瞬で変わる本 何をしてもダメだった心が強くなる習慣』(PHP研究所)

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